対等契約





19










「ルーク!」

「うわっ!」

「もうみんな集まってるよ。」

「何で今日に限ってが元気に起こしに来んだよ。」

頼まれて起こしに来て見たら、逆に文句を言われた。
元気に、というところに笑ってしまう、あたしはいつも朝青白い顔しかしてないそうだから。

「・・・昨日はごめんね、あたし、ルークの尊敬する師匠に、凄く失礼なことを・・・。」

もちろん、ティアのお兄さんでもあるから余計・・・失礼なんだけど。
あたしがそう言うとルークは首を横に振った。

は、俺のこともあって怒ってくれただろ、だから・・・。」

「・・・うん、ルークのこともあったけど。何か、何か他にもあった気がするの。」

「そう・・・か。ところで手は大丈夫なのか?」

そっと右手を取られた。

「うん、全然・・・傷一つ無いなんて、可笑しいわよね・・・。」

・・・お前・・・辛いんじゃないのか?」



決心が鈍ってしまうかと思った。
平静を装って、馬鹿ね、と呟く。

「辛いのはルークでしょう?・・・あたしは大丈夫よ。」

「・・・。」



ちょっと遅れて食堂に行けば、みんな集まっている。
例の禁書の内容だ。あたしには相変わらず、難しい話。
途中、アッシュが怒って(というか照れて)出て行ってしまったので、
これがチャンスと「あたしも散歩!」と言い残して飛び出した。



「アッシュ、ちょっと歩くの早い・・・。」

「誰がお前に付いて来いと言った。」

その言葉に苦笑する。

「話しておかなきゃいけないことがあるの。」

あたしはまず、昨日のことを謝った。
そして・・・。

「あたし、レプリカじゃ無かったんだって・・・。」

「・・・そうか。」

大して驚きもしないアッシュに、あたしは、予想通りで切なくなる。

「こっちの「」が今どうなっているのか、知ってるのはディストだと思ってたんだけど・・・。
これが、案外、はっきりしないみたいで、手詰まりなんだよね・・・アッシュは・・・やっぱ知らないよね。」

もし、どこかで生きているのならば、会って話をしなくてはいけない。
お礼だって、直接言わなければならない・・・。

「知ってたら連絡くらいしてやっている。」

「そ、そうだよね。ごめん・・・。」

今になって、こんな風にあたしがこっちの「」を求めるのは変な話だ。
でも、知らなければ不安になる・・・。

「お前は、お前なんだろう?」

「・・・え?」

「それがわかっているなら十分だ。」

あたしは涙が出そうになって、思わず俯いた。

「ねぇ、アッシュ。どうか生き急がないで・・・きっと大丈夫だから。」

「・・・!」

一瞬、驚いたようにあたしの顔を見るアッシュ。

「・・・どうしたの?」

「嫌、なんでも無い。」

「・・そう。」

言葉が続かなくなり、二人で黙って宿の方に向かって戻ると、人影が通り過ぎた。
アッシュとあたしはそっちを向く、・・・スピノザだ。
しまった、と思った。ここでアッシュと話しているより、スピノザを捕まえていた方がどんなに、
・・・どんなに彼のためだっただろうか・・・?
否、これは自己満足でしかない、漆黒の翼が一緒にいることは、とても心強いことではある、
けれど・・・やっぱり、寂しいよ。

「な、なんだ今の?」

「スピノザ、多分、話の内容を立ち聞きして逃げたんだと思う。」

「そうでしょうね・・・ヴァンにでも通報するつもりでしょう。」

私はうなずく。
長いものには巻かれよ、か・・・。

「・・・聞かれては不味い話でもしていたのか?」

その質問に、ナタリアが説明してくれた。
あたしも、一緒になって聞く・・・そうだ、次はダアトだ。



ふと、イオンの手紙が頭をよぎる。



この前、僕が秘預言を確認したと言いましたね、その時僕は・・・。
僕は、貴女のことがきっと詠まれていると、直感で感じていました。
しかし、それらしき箇所が見当たりませんでした。

、僕は、もし貴女に関する預言が見付かれば、
それが良いものであれ悪いものであれ、貴女の不安を取り消してくれるのではないかと思い、探したのですが・・・残念です。
本当なら、知らせなくても良いのかもしれませんが、無かったということも結果の一つだと思い、伝えることにしました。

これで最後の可能性は、おそらく・・・。



イオンは優しすぎる、最後の言葉はあたしでもわかる。
おそらく、惑星預言だ。
そんな大それた物に自分が詠まれているとは思わない。
絶対にイオンにそんなもの詠ませるわけにはいかない・・・。
けれど・・・イオンの言葉の通り、この世界で預言に詠まれていないのは不安なのだ・・・。




ルーク・・・貴方もこんな気持ちを抱えてきたのかな?
私にも、少しはわかってあげられるよになったかな?



「じゃあ、俺がスピノザを捜して捕まえておく。」

その言葉で、ハッと現実に戻る。
アッシュは・・・優しいから。
でも、昔のルークみたい、上手にあらわせないのね、きっと。
そして、気付く側にもその配慮が足りないのかもしれない。
結局、喧嘩別れみたいになってしまった。

「みんな、イオンのところにはもちろん急がなきゃいけないと思うけど、
ルークもこう言うと聞かないし、ね、ちょっとだけ追いかけてみましょうよ。」

イオンのところにはもちろん、急いで行きたい。
でも、今ダアトに居るのは安全だと、その確信はある。

まで・・・。」

ティアが頭抱える。

「まぁ、いいではありませんか、ちょっと立ち寄るくらいでしたら。」

そんなこんなで、やれ、ダアトの手前に会うわ、ケテルブルクに行くわ、
結局はグランコクマへ・・・。

「ナタリア、レプリカ・・・それにまで・・・。」

アッシュは、あたし(たち)が面白そうにしているのが不満のようだ。

「面白かったわ、アッシュの背中を追いかけっこして。
じゃあアッシュ、スピノザのことよろしくね。さぁて、急いでダアトに向かうわよ。」

「まったく・・・さっさと行け・・・気をつけろよ。」

みんなに、!!と怒られたけど、そんなのお構い無し。
アッシュの最後の言葉、聞き取れないくらい微かだったけど、幸せだと感じた。



イオン、急いでいくから待っててね。
本当なら、貴方を優先させるべきところを、勝手をしてごめんなさい。
・・・ただ、どうしても・・・。

「お前も頑張るなぁ・・・。」

「え、何?ガイ。」

あたしはハッとして顔を上げる。

「みんなの心配より、自分の心配はいいのか?」

「だって仲間じゃない、いいのよ、あたしは。」

何してるのー?急ぐんでしょ?というアニスの声に、ごめん、今行く!っと返す。
アニス・・・苦しい思いをしなくて済むように・・・出来ればいいのに・・・。





とにかくダアトに到着。六神将が留守というチャンスに便乗してイオンを連れ出すことに。
部屋に行って事情を説明して、タタル渓谷のセフィロトに向かうことになる。

「またこうして一緒に旅が出来て、不謹慎だけど嬉しいわ。」

「ええ、僕も嬉しいですよ。」

手紙、ありがとう・・・あたしは大丈夫よ、イオン。
そう呟けば、貴女は本当に変わりませんね、と言われた。

外に出ようとすると、アッシュからルークに連絡が入った。
手紙で先に情報を漏らされてた上に六神将・・・シンクかしら。
ともかく、測定器をもらうためにシェリダンへ。
外へ出ると、アニスのママがアリエッタに伝えてしまったそうで・・・。
街中で暴れられては困る。

「待ってアリエッタ、落ち着いて。無関係な人に被害を与えれば、あなたも同じように恨みを買うのよ?」

あたしの言葉なんて聞く耳持たない・・・否、軍人に近しい彼女には、それぐらい承知なので・・・。
それだけ・・・イオンが・・・オリジナルイオンが・・・。

「イオン様!」

「・・・ッ。イオン、危ない。」

ここで、アニスのママに怪我をさせるわけには行かない。
無防備で突っ込むことがどれだけ危険かなんて、わかってる。
でも、あたしは、あたしのやりたいように、この我侭を貫き通してみせる・・・!!

「く・・・。」

電流直撃は避けたかったが、・・・あたしは目を瞑った。



「・・・!」



頭の奥で何か声がしたと思うと、目の前には赤い光の壁、一瞬で消えてしまったけど。
一瞬ティアかと思い顔を上げるも、そうではないようだ・・・。
なら今のは・・・「」・・・?




パメラさんもかすり傷程度で済んだみたいで、あたしも軽い火傷で済んだ。

・・・大丈夫ですか?」

「ストップ、はい、黙って。いいよ、謝るのもお礼もいらない。
あたしは自分のやりたいことをやっただけなの。」

「ですが・・・。」

「火傷だってナタリアに治してもらったし、大丈夫よ。」

「・・・わかりました、でも・・・ありがとうございます・・・。」

「いいえ、どういたいまして。」

とりあえず、ガイの様子がおかしい、ってことで礼拝堂へ。
・・・よかった、あたしが変な行動しちゃって、また余計なことになったらどうしようかと思った。
我侭は貫き通す、なんて言っておきながら、後ろ向きばっかりね・・・。



礼拝堂に行ってガイの話を聞いた。
マリィさんや、ガイのお母様は、聡明で・・・強い女性だったのだろう・・・きっと。
一通り話しをして、シェリダンへ向かうことに。

「ガイ・・・大丈夫?・・・何て聞くもんじゃないんだけど・・・。」

「お前の方が青白い顔して、良く言うよ・・・。ほら、行くぞ。」

「うん。」

あたしたちはアルビオールに乗り込んだ、水上飛行でシェリダンへ向かう。
時間はどんどん迫ってくる・・・今を・・・無駄にしないように・・・。









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2006/2/8

イオンの手紙はまぁ、伏線のようなものです。どんどん迫って行きますね。
最も、まだまだ、先は長いですが・・・。
ヒロインは、この先の身の振り方を、だんだんと決めてきている感じで。