対等契約
18
「アッシュ!?」
「!?」
ナタリアとルークがそれぞれ驚いた顔をする。
今は無事を喜び合ってるわけにもいかない。
「な、何をしてるんですアッシュ、そいつらを捕まえなさい!」
アッシュが前に出る。
「ここは俺が食い止める、お前も行け。」
「・・・わかった。任せる。・・・気をつけて。」
任せるのは信頼の証。
貴方を一人にしていることに、酷く胸が痛むけれど。
それはナタリアも同じはず・・・。
あたしたちはその場をアッシュに任せて外に出る。
「何があったのか想像付く、泣きたいなら思いっきり泣いちゃえって、いつもなら言う。
でも、今は、アッシュが足止めしてくれてる。急いで逃げよう、ナタリア。」
「・・・ええ。」
こんな言葉で取り繕える問題じゃないんだろうけど。
あたしにはわからない、こんな言葉しか掛けてあげられない。
アッシュならどうするんだろう・・・。
・・・否、誰ならどうする、何て今は無しだ。
「も無事でよかったよ。」
「ありがと、ガイ。まあ殺されなくて良かったわ。」
お互いに、ね。
「もアッシュに助けてもらったの?」
アニスが前方を走りながら振り返って言う。
「うん、そう。」
「何はともあれ、全員無事だっただけ良かった、というところでしょう。」
アッシュが白光騎士団を動かしてくれたおかげで、あたしたちはどんどん下へ降りる。
彼も頭のキレる人間だと思う。だから、何故あんな風に一人で・・・。
あたしは頭をブンブン振った。
ともかく、今は助けてもらった命を、無碍にしないようにするのが優先だ。
もうちょっとでバチカルから出られる、その時。
あたしたちを追いかけてきたゴールドバーグからナタリアをかばう町の人たち。
・・・あなたは、こんなにも沢山の人に想われているのだから、その自信を持つべきだわ。
アッシュも、ルークも、みんなも・・・。
「・・・っ・・・」
「え?」
「どうした、?」
「あ、ううん。何でもない。」
今、何か聞こえた気がしたけど・・・この喧騒の中だ、空耳だろう。
あたしが頭を押さえていると、アッシュが駆けつけた。
まったく、世話を焼くのが好きなんだか・・・。
ナタリアが傍にいると自然と、アッシュから距離を取ろうとしてしまう。
馬鹿みたいな自分。
でも、さっきから・・・ううん、ずっと前から?何かひっかかる感じがする。
「、イニスタ湿原に行くよ・・・って、聞いてる?」
アニスがあたしの顔を覗き込む。ハッと我に返る。
「ごめん、ぼんやりしてる場合じゃないのに。」
「ぼんやりする、くらいならまだ構いませんが・・・、顔色が悪いですよ?」
「ごめんなさい、大佐・・・平気です、ちょっと頭痛がしただけですから。」
ここのところ突発的に、弾ける様に・・・と言えばいいのか、頭痛がする。
「頭痛・・・ね。」
「え?」
「いえ、ともかく・・・湿原を抜けてベルケンドに向かいましょう。」
あたしたちは可能な限り急いで湿原を進むのだが、地面が柔らかく、ペースが伸びない。
おまけに、大きくて黒い、モンスター・・・。アニスと一緒になってラフレスの花粉をこれでもか、と叩きつける。
湿原を出るころには、ナタリアも落ち着いていた・・・というか感極まったというか・・・。
ガイとナタリアのやりとりに、声をかける術さえ見当たらない。
否、彼女は大丈夫だろう、きっと。
「アニス。」
「ん、何、?」
「手繋ごうよ。」
「は?・・・いいけど。」
はいどーぞ、と差し出された、アニスの手を握る。
「ありがと。」
「イオン様が居なくて、寂しいから身長の近い私?」
「あはは、違うよ、なんとなく。」
イオン・・・名前が出るだけで、警鐘を鳴らされているような感覚。
追い詰められるような焦燥感。
何故だろう、最近やけにこんな感じがする・・・。
ベルケンドに無事到着、第一音機関研究所。
ルークがアッシュと間違えられて、ヴァンのところに連行される。
「人間が預言に頼り過ぎだと言うのなら、変わればいいじゃない。
もちろん、気の遠くなる程の時間がかかるでしょうけど、不可能じゃないはずよ?
・・・待つことくらい、選択肢にあっても可笑しくないはず、なんだけど・・・ね。」
キッとリグレットに睨まれる。
ヴァンは相手にもしないようだ、まぁ、こんなんで揺らがれても困るけど。
ガイもひっくるめて、話がごちゃごちゃしてきて、アッシュまで来た。
ヴァンの言葉に、いっぺんに頭に血が上った。
「黙れ!」
ガッと、壁が減り込む音がした、自分でも、どこにそんな力があったのかわからない。
「雑魚とか、劣化品だとか、ふざけんな!お前が生み出したくせに、勝手ばかり。
使い捨ての道具じゃないんだよ、レプリカも命のある人間だ。・・・そんなことも分からないのか。
だったら、ここで・・・。」
殺してやる。
そう思った瞬間だった。
『ダメよ!』
「痛っ。」
頭の中で、聞こえたもの。
バチカルのときも同じ、ずっと前も同じ。
それは・・・。
「今までは黙って見守ってきたけれど、あれだけはまずいと思って止めてしまったわ・・・ごめんなさい。」
あたしより、ずっと穏やかな声・・・でも、これは・・・。
「貴方がこっちの世界での「」なのね・・・?じゃあやっぱりオリジナルなの?
これって、ルークとアッシュがしてるような意志伝達でしょう?・・・だったら・・・。」
「違うわ・・・。」
そう、悲しそうな声だけが返ってくる。
「私は貴女の中に居るの、もっとも、私の一部なのだけれど・・・。」
「え?」
「本当に、勝手に呼び寄せて・・・ごめんな・・・さい。」
声が掠れている。
呼び寄せて?それじゃローレライが呼んだんじゃないの?
ああ、そもそもあたしが契約して・・・ってことは、こっちの「」が契約したってこと!?
聞きたいことも、知りたいこともいっぱいあるのに。
何度呼んでも、もう返事は返って来なかった。
「・・・大丈夫?」
「あれ・・・あたし・・・ごめん・・・どれくらい気を失ってた?」
「ほんのちょっとだよ、その間に主席総長達は出てっちゃったけど、私達も外に出よう?」
それじゃ、あの会話は一体何だったというのだろうか。
夢・・・?違う、現実だ。
「うん、あ・・・ティア、さっきはお兄さんに・・・ごめんね。あたしも自分では良くわからないけど。
急にカッとなって、何でかな・・・。」
ルークのことだけじゃない、何かがあたしの中で弾けたんだ。
自分の右手を見る。傷一つ無いなんて、可笑しいと思いながら。
「・・・いいのよ。でも、良かったわ・・・貴女に怪我が無くて・・・。」
「ごめん。」
こんな言葉しか出てこない自分に呆れる。
「アッシュは宿に居ますわ、ルーク達も先に行っています、私達も参りましょう。」
「うん。」
何て、最低なことをしてしまったんだろう・・・。
ルークにも、アッシュにとっても大切な師匠で。ガイにとっても・・・。
それに、ティアのお兄さんなのに。
貴女が止めてくれなければ、あたしが死んでいたのならそれでいいの。
でも、何故か、あの時貴女が止めてくれなかったら、あたしはヴァンを殺していた気がした。
背筋がゾッとなる。
ねぇ、貴女とあたしは、同じ「」でしょう?
貴女は、貴女の一部があたしの中在ると言った・・・それは・・・もしかして・・・。
宿に到着すれば、ノエルと男性陣がお待ちかねだった。
とりあえず、「ごめん」という言葉以外出て来なくて、黙っていたら、アッシュが口を開いた。
ジェイドに本を渡している。
「おい、聞いてるのか?」
「痛・・・くない・・・。びっくりした。」
紙のような物でペシっと叩かれたので思わず顔を上げる。
「導師からだ。」
「・・・手紙・・・?」
「一人で、読んでくれ、と伝えてくれと頼まれた。」
「そう・・・ありがとう・・・。」
ギュっと、その手紙を胸に押し当てた。
寝る前にでも、読ませてもらおう。
「え、プレイベートな手紙!?ま、まさかラブレター!?」
「アニス、それはまず無いと思うわよ。」
「そもそも、アッシュに見られても平気な中身でしょ、預けるくらいだから。」
あたしが言うと、なるほどと納得する一同。
アッシュが一人で、誰が見るか!と怒っていたがスルーで(酷)
「わざわざ手紙をよこす、ってことは急ぎなんじゃないのか?」
「先に部屋に行って目を通したらどうだ?俺たちも各自休むし。」
ガイの言葉に頷いて、あたしは部屋に行った。
一つ、深呼吸をして封を切る。
へ
すぐにお会い出来る、という確証が無いので早めに知らせた方が良いと思い、
アッシュに手紙を届けてもらうことにしました。
本来、これは貴女に直接お会いしたときにお話するべきだと思いますが、
この先どうなるかわからないので、こうして手紙にしておきます。
まるで、自分が死ぬことを知っているかのような、イオンの手紙。
その一文がやけに、あたしに嫌な予感を与える。
この前、僕が秘預言を確認したと言いましたね、その時僕は・・・。
この続きには、正直、びっくりしたと言えばびっくりしたと思う。
けど・・・何故か、それで安心もした。
まだわからないことだらけだけど、何かが少しずつ、繋がって来た気がする。
あたしはイオンの手紙を丁寧にたたんでしまうと、ベッドに体を放った。
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2006/2/4
出し惜しみ失礼します。イオンの手紙が告白じゃなくて残念ですが(苦笑)
もう、壮大な捏造話に及んでいきますので、手紙のネタバレは少々お待ち頂ければと。
それから、ヒロインはヴァンに対して、わりと、はっきり嫌悪を出してます。(その後、自分で凹んでますが)
正直、嫌な女かもしれませんが、まぁ、いろいろとあるということで大目に見て頂ければ・・・と。
(師匠ファンのみなさまには大変申し訳ないですorz