対等契約





17










「・・・おはよう。」

寝ぼけた目を擦って、降下がどうなったか尋ねる。
無事終了したよ、とアニスの返事を受けてほっとした。
本来ならここで倒れるティアが倒れずに済んでよかったと思う。

「外に出て、ちゃんと魔界に到着できたか確認しなきゃね。」

「ええ、そうね。」

「それにしても、は相変わらず顔色が悪いですわね。」

「ティアも疲れてるみたいだし、もだが、また検査してもらった方がいいな。」

ま、それは機会があったらで。今は大丈夫というあたしたちの揃ったセリフ。
ともかく外に出てみることになった。
ちゃんと魔界に着いていた、とりあえずケセドニアに。
到着するとノエルが待っていてくれた。

「本当にお疲れ様、ノエル。」

「いえ、さん達もお疲れ様です。」

この子は、本当に働き者というか、しっかり者というか。
逞しい子だなぁ、と思う。

大佐が気になることがあるというので、アルビオールを飛ばしてもらうことに。
とりあえず反対側から町の外へ出る。

「ん、何ルーク。どうしたの?」

「いや、アッシュのこと考えてたんだ。」

「そっか・・・心配だよね。まったく、どいつもこいつも素直じゃないんだから。」

「・・・も素直じゃないだろ。」

「ぐ・・・。」

反論できずにがっくり。
漫才をやりに来たわけではない。



アルビオールで空を飛んでもらうと、何だかおかしなことになっていた。
セフィロトの暴走がなんたらで、難しい話になっている。

「何だかわからないけど、パッセージリングが壊れちゃうかもってことか・・・。」

イマイチちんぷんかんぷんだが、要はポイントを理解してそれを対処すればいい。
大地の液状化を止める、説も難しいようだ。
ユリアシティの機密事項を調べてもらうために、イオンを頼ることになる。

また会えるのは凄く嬉しいけど、どんどん時間が迫ってくるのを感じるのは・・・。
凄く、痛いことだ。



ダアトに到着すると、一旦宿屋に寄る。
正直、パッセージリングのところでまともな休息は取れなかったのも理由だ。
あたしは、ルークがティアに音素学を学ぶというのでくっついていくことになった。
残りは買出しと休憩ということで。





まぁ、あたしは超振動うんたらには関係無いので、
2人のお勉強中に、例の本を借りてパラパラめくっていた。

「・・・わからん・・・。」

それ以外に相応しい言葉があるなら教えて欲しい。
確かに、初歩的な本かもしれないけど、こっちである程度生活してないと無理そうだった。
自分の性格としては、こういう、文字から入る人間だったのだが、
こっちに来てから生身体当たりの多いこと多いこと。

「どうだ?」

特訓(?)終了で、ルークがあたしに声を掛けてきた。
本を閉じて手渡す。

「全然ダメみたい。」

「仕方が無いわ、やっぱりそのうちに実践してみましょう。」

「うん、ありがと。」

今日、本当はルークがあたしの実践でもやってくれって頼んでて、
慌ててダメ!ルークが先!と叫んでしまった。
万一今後に悪影響が出たらまずいし、まぁ、あたしは譜術が使えなくて困ってるわけじゃない。





宿屋に戻ると全員準備は済んでいた。
教会前は船が出ないやらなにやらで人だかり。
あたしたちは中に入ってアニスにくっついてイオンの部屋にワープ!
うきうき気分でドアを開けるともぬけの殻。

「い、イオン・・・。」

・・・そんなにガックリしなくても。」

アニスが呆れている。
人が来る気配がして、あたしたちはとなりの部屋に隠れた。
モースとディストの会話を盗み聞きする。

「ネビリム先生のレプリカ情報と、例の資料、頼みますよ。」

「うむ、ヴァンから取り上げてやろう。」

ネビリム先生のレプリカ情報か、例の資料ってのがわかんないけど。
まぁ惑星譜術とかフォミクリーの物だろうなぁ。
しかし、最近物忘れが酷くて困る。
ここで先に図書室に行ってたら避けられたかもしれなかったのに。



あたし達は図書室でイオンに会い、譜石の確認をしてもらった。
ふらっと倒れかかるイオンをアニスとあたしで支える。

「レプリカが詠まれてない、か・・・。」

?」

「や、あたしの世界には宗教はあったけど預言みたいなのはなかったから。
そんなの、全部当たってなくて当然じゃないかなぁ、ってバチあたりな考えなだけよ。」

「・・・そうなのか。」

半分ルークを励まそうと思って口にした言葉だったけど、効果は期待できなかった。
預言、か・・・あたしもこの世界に生まれていたら、それに縋って生きていたのかな。

そんなことを考えていると、チリっと頭痛がしたような気がして頭を抑える。

、大丈夫ですの?」

「うん、ちょっと頭痛がしただけよ。」

ナタリアが心配そうに声をかけてくれた。その時だった。
モースが手を回したのだろう、オラクル兵が見える。
あたしも反射的に飛び出して、1人伸した。

!怪我はありませんか?」

「うん、ありがとうイオン。」

あたしのことより、イオンの方が心配なのに。
オラクル兵もイオンには手を出さない、イオンは逃げてください、と言った。
あたしたちは後ろ髪引かれる思いで教会を後にする。



町の外に、まさに出ようと思った時だが、モースとディストに捕まる。
ディストに会った良い機会、というわけにもいかず、話も聞けなかった。
ノエルが殺されたりしてなきゃ、まあ、それでいいのだけれど。

「問題はルークか・・・処刑される、なんてまっぴらご免だわね。」

その方がいいのかもな、というルークにティアが怒っている。

「まあまあ、ティアもそんな風に怒らないで。ルーク、世界の繁栄なんてどうでもいいじゃないの。
別の世界のあたしが言うのもなんだけど、もし、ルークと世界の繁栄を天秤にかけてみるとする。
そりゃ、よく知りもしない人間や、権力者は世界の繁栄を選ぶでしょうね。事情はどうあれ。」

わかっている。多分、普通に生活している人間には、世界の繁栄の方が大切なんだろう。
でも、あたしはそうじゃない。無責任な異界からの訪問者、だもの。

「セフィロトのことも、どこにどんな証拠があってルークのせいなの?さっぱりわからない。
自分に自信を持とうよ、ルーク。存在とか、価値とか、関係ないよ。
今こうしてしゃべってるあたしは、ルークが大事なの、わかる?あたしはルークを選ぶよ。
それが無責任だと非難されようと、なんだろうと・・・ね。」



言いたい放題言って黙ると、ノックがあって呼び出された。
ディストが呼んでるとのこと。



、行く必要はありませんよ。」

大佐が首を振る。
心配してくれているのだろう。

「折角呼ばれたので、行ってみます。」

「危険かもしれませんわ。」

「ま、何とかなるよ・・・じゃ、後のことは任せます。
ルーク、言いたいことばっか、勝手に言ってごめんね。」

あたしは苦笑して部屋を出た。
オラクル兵同伴で部屋に通される。





「素直に来るとは意外ですね。」

「褒めて下さってどうも。」

「褒めてません。」

「・・・。」

まったく何の用事だって言うんだろう。
そもそも、質問したいのはあたしの方だし、あたしから口を出そうか、と思っていると。

「・・・貴女、本当になんですか?」

「そうですね、親にそう名付けられましたから。」

「親・・・?貴女親なんて居なかったじゃないですか。」

あたしはびっくりして、聞き返す。

「ちょ、どういうこと?」

確かに、あたしも親は居ない、でもこの名前は親が残した名前らしい。
孤児院に捨てられていた時に、最初に包まっていた産着に名前が付いてたと聞いた。

「・・・頭がおかしくなったんですか?」

「いや、多分、あんたが誤解しているだけよ。」

しょうがないから経緯を話した。
まぁ、敵側にバレてどうなる内容では無いし。

「別の世界・・・ですか。」

完全に疑ってかからないのは、研究者の性なのやら。
半分くらいは信じてもらえたようだ。
別に、信じてもらえて嬉しか無いけど。

「では、やはり別人・・・ですか・・・。」

「え?」

「ふん、まぁとりあえず私の実験していたでは無い、ということですね。
それがわかっただけで結構ですよ。」

結局、その後は大した話は聞けなかった。
(コイツ意外に口が固いわね)
そのくせ、皆さんとは別室に捕獲されちゃったわけなんだけど。
まさかおとなしく捕まってまーす、なわけにもいかない。
みんなと別行動すると、現状が把握できない・・・なんとかなってるかな。


「あーあ、アッシュがあたしも助けてくれればいいのになぁ。」

まったく、ここは何処なんだろう。牢屋ってそんなに必要なのだろうか?
城には間違い無いけど、逃げようにも鍵は開かないわ、開けられないわ。
根性でドアを、例え壊せたとしてもすぐ捕まっちゃうだろうし。
あたしは熊のように行ったり来たり、行ったり来たりを繰返して唸っていた。

「おい!」

「わぁ!!!」

「馬鹿、大声を出すな!」

「もが!」

口を押さえられて、後ろからお腹を抱えられるように抱きしめられて、もがこうとしたけど、
兵士の声がしておとなしくしていた、アッシュに心臓の音が聞こえないといいなぁと思いながら。
(こう、後ろから抱きしめられる等の経験が無いので、男女関係なく気が気じゃなくなる)

「行ったな。」

「ぷは!びっくりした。」

「それはこっちの台詞だ。折角助けてやったのに何考えてやがる。」

「むぅ、何それ。まさか助けが来るとは思ってなかったんだもん、仕方無いでしょ!」

アッシュが呆れる。

「って、ダメだ。こんなアホなことやってちゃダメなのよ、謁見の間に行かなきゃ。」

「?」

アッシュが、アイツらは先に逃がしたぞ、と言う。

「ええい、ともかく、謁見の間なの。」

アッシュの腕を引っ張って駆け出す。

「お前のその下らん自信はどっから来るんだ。」

「ともかく、あたしの勘があってればみんなそこよ、まぁ敵もそこだけど。
・・・っと、ごめん。お礼してなかったね。本当にありがとう。」

勘・・・、勘では無いけど、今はこれが取り繕える唯一の言葉だ。
あたしがそう言うとそっぽを向くもんだから、怒ったのかと思えば真っ赤だ。

「何よ、テレなくてもいいじゃない、人が素直にお礼言ったのに。
それに、赤くなる相手はナタリアでしょーが。」

「っ・・・黙れ!」

まったく、素直じゃないのばっかりだなぁ、と思いながら階段を上る。
周りの兵士が眠っているところを見れば間違いない。
今、どんなタイミングなんだろう。
わかんないけど、突入するしかない。
謁見の間の前で一瞬足を止め、あたしとアッシュは一気にドアを開けた。











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2006/1/30

ちょっとはオリジナルっぽく出来たかなぁ、と思います。
ディストが意味深ですが、まぁ後々分かっていく予定ですので、あまりお気になさらずに。
それから、お読みになってお気づきの方もいらっしゃると思いますが、
みんながギスギスしたり、ティアがガツンとルークに怒るとことかはヒロイン挟んで濁しています。
私が7歳のルークが可愛くてしょうがないので、そいうシーンを避けているのも事実ですね(苦笑)
単にヒロインに美味しいとこ取りさせてるだけですけど・・・orz