対等契約





16











町に出来た下らない国境を越える手がかりを探す。
まぁ、怪しいのは酒場なわけで、あたしたちは中に入った。
合言葉が無いと通れないという、困っていると漆黒の翼。
合言葉を売ってくれるそうだ。

「買わない・・・?」

!?」

「勝手なこと言ってるってわかってるし、良いことじゃないっていうのはもちろんわかってるの。
だけど、この人達が戦争のせいで皺寄せにされてるのも事実だと思うから・・・。
ダメなら、あたしがみんなの分を払う。勝手なこと言ってごめん。」

自分で何とか出来ない金額ではない、と思う。
この人たちが、どんな思いで生きているのか、まだみんな知らないのだけど。
8000ガルドなんて安いものだ。
生きることと、お金なんて天秤にはかけられないのだから。

「・・・そこのお嬢ちゃんに免じて通してやるよ。」

「え、でも。」

「いいから、行きな。」

「???」

どうして通してくれたのか分からないけど、あたしはありがとう、と言った。
彼等が間違っていないと、完全に言い切れることはないかもしれないけど。
あれも、生きるための手段の一つであるのは、紛うこと無き事実でもある。



とりあえず、ザオ遺跡の話を聞いて、アスターさんのところへ。
ケセドニアが崩落を始めているらしい・・・不味い・・・。
ザオ遺跡のパッセージリングを操作する、という事に決まる。

「ナタリア、大丈夫?ここで立ち止まってても、真相もわからないし、
崩落も止められない、とりあえず先に進もう。ね!」

無理を言っているとこは承知だけど、おいていくわけにもいかない。

「・・・ええ、ありがとう、。」

痛々しいナタリア。
あたしにはわかってあげられない痛みを、彼女は感じている。

ケセドニアを出ようとするとルークに頭痛。
アッシュが砂漠に来いとのことだ・・・。



そうだ、彼は確かルークを心配して・・・。
ってことは、彼の体が・・・?
あたしには詳しい知識は無い・・・だけど・・・。
とにかく、あまり良い状況とは言えない。





「・・・やっと来たか・・・。」

「話って?」

砂漠に着くとアッシュが待ちくたびれていたようだ。
例の話をしても、やはりルークには何とも無いみたい。
ローレライが関係しているのだろうか?
コンタミネーション現象?
どちらにせよ、今答えが出ないことは明確だった。



「・・・世界に絶対なんて無いんだ・・・だから」

そこだけ、妙に耳に残った。
ナタリアとアッシュが話していたから、黙って考え事をしていたのに。
・・・そうか・・・でも、世界に絶対が無くても、気持ちに絶対はある、と思う。



まさかこんなところで。
忘れていた彼の言葉で、自信が持てるとは思わなかった。
世界に絶対は無い。
でも、あたしが絶対変えてみせる。
その気持ちは、変わらないから。



契約、契約。そんなこと本当はどうでも良かったんじゃない。
あたしが黙っていなければと思ったことも、口や手を出したことも。
そんなの、直感も含め全部あたしがやったことじゃない。
契約という言葉に絆される必要なんて無い。
あたしは、あたしのやれる限りを尽くすんだ。



「アッシュ・・・気をつけてね。」

「ああ・・・。」

別れ際に、交わした言葉。
今回も話を聞いている暇もなく分かれてしまうあたしたち。
まぁ、聞きたいと思ってるのはあたしだけかもしれないけど。
いつか・・・、わかる日が来ることを信じて・・・今は先に進むだけ。
自分にも言い聞かせるべき言葉。

立ち止まっていては、何も始まらない。
良くも悪くも、進まなければわからない。



「なんだか嬉しそうだね。」

ザオ遺跡に急ぎながらアニスがそう声をかける。

「うん、何だかスッキリしたの。」

「ふーん?」

説明不足だからか、アニスは首を傾げる。

「ま、何より今は先を急ぎましょ。」

「そうだね!」



ザオ遺跡に到着。

「パッセージーリングー♪」

アニスは遠足気分だ。

「ま、こんな時だから元気良く行こう。」

あたしも先を進むアニスを追っかける。

「ほらー!さっさと終わらせよ!」

「そうそう、アニスの言う通り、さっさと終わってさっさと戻ろう。」



先に進むとサソリとも言えない、なんとも嫌ーな敵発見。
内心、気持ち悪ー!と叫びながら殴りかかる。
やはり人数が勝るだけあってさっさと戦闘終了。

先に進んでパッセージリングへ。

・・・凄い高さ、深さ。
こんなもので外殻大地が支えられているんだ、正直信じられない。
それに、イマイチそのシステムも、瘴気を含んだ第七音素のことも気になる。

「ん、どうした?」

じっと下を見て出遅れた私に声をかけてくれるガイ。

「あ、ごめん。今行くわ。」

「俺たちだって謎だらけだから、はもっとわかんないだろうな。」

そうガイが笑う。

「本当、難しい話となるとさっぱりよ。」



先に進むとパッセージリング。
前に出るティアの手を取って、あたしも一緒に前に出る。

「何か意味があんのか?」

ルークが直球に尋ねる。

「ん?全然。ただ、こうしておいた方がいいかなぁ、って思ってるだけよ。」

「ふむ・・・。」

大佐の視線が痛いなぁ、と思いながらも、ティアの手を取る。

「私が疲れないように気を使ってくれてるのよ、は。
パッセージリングを起動させるのに、力を使うから。」

ティアが助け舟を出してくれる。

「じゃ、も第七音素が使えるのかな?」

アニスの素朴な疑問。

「え?・・・そんなこと考えたこともなかったなぁ。」

「そういえば、俺たちだって考えたことなかったもんな。」

ルークも頷く。

「そうですね、別の世界から来たから、というだけで素養が無いとは言えないでしょう。
今度機会があったら訓練してみてはどうです?」

「ルークも超振動の制御を勉強中だし、もやりましょう?」

「うん、是非、暇が出来たらね。」

そういえば考えたこともなかった。
自分は向こうから来たからまず、譜術なんて使えないだろうと思ってたけど、
ためしもせずに結論を出すことは無い、か。



結局、パッセージリングは正常に起動、大佐の指示でルークが色々やっている。

が譜術を使えれば、さらなる戦力ですわね。」

「まぁ、どの音素が使えるかもわからないけど。」

無事降下を始めたので、様子を見るために今日はここで休むことに。

もティアも疲れてるんだろ?ちょっと休んでろよ。」

あたしたちはルークの言葉にお礼を言って少し休むことに。
みんなもそれぞれ休憩を取りながら様子を見ることにしたようだ。

、貴女本当に体調は平気なの?」

「うん、そりゃちょっとは疲れるけど。ティアは?」

「平気よ・・・・多分、がああしてくれなければ凄い負担だったでしょうけど。」

あたしは苦笑する。

「あたしがどこまで、ティアの負担を軽く出来るかわからないけど。
いいじゃない、半分子で、恨みっこ無し、でしょ?」

「・・・。」

「大丈夫よ、ティア。」

あたしはティアの手をギュっと握る。
心配そうな顔。

「さて、流石に眠いからちょっと仮眠仮眠。」

「ええ、おやすみなさい。」

野宿セットから敷く物だけ借りて横になる。
なんだか、凄く眠いのだ。





気が付けば、真っ暗だった。
一瞬、降下に失敗したのかと慌てるが、すぐに気付く。
ローレライだ。

「・・・ローレライ?」

何となく気配がうまく掴み取れない。
疲れているからか、眠いからか。

「あれ程力を使うなと言っただろう!」

第一声が説教だったので、あたしは首を傾げる。
彼の不興を買うようなことでもしただろうか?
彼との接触に力を使っていることは知っている。

「ちょっと待って、こうして接触している以外であたし、何か力を使ってるの?」

「・・・パッセージリングの起動に手を貸したであろう?」

それにハッとする。
今まで力って何だろう、と漠然と思ってきた。
まさか。

「・・・もしかして、力って第七音素のこと・・・?」

「そうだ。・・・お前は気付かずに協力したのか?・・・何ということだ。
もしお前が素養の無い人間であれば、第七音素を取り込めば・・・。」

それ以上は聞かなくても知っている。
モースを見たもの。
精神汚染・・・。
背筋がゾワっとする。
死ぬことが怖いんじゃない。
こんな、志半ばで死ぬかもしれなかった、それが怖かったのだ。



そうだ、どうして今まで気付かなかったのだろう。
起動に際して、ティアの体に汚染された第七音素が蓄積した。
それを請合って半分もらっているのがあたし。
・・・恐ろしいことを忘れていた・・・。



「ともかく・・・これ以上の力の使用は・・・。」

そう言い掛けてローレライは黙る。

「・・・言っても聞くわけが無い・・・か。」

ローレライが嘆くようにそう呟いたのをかすかに聞き取って。
あたしたちの久しぶりの接触は終了した。





そうか、ローレライとこうして接触するのにも、
パッセージリングの起動に協力するのにも、
あたしは第七音素を使っていたんだ・・・。
もっと早くにわかっていれば、もっと色々力になれたかもしれないのに。
・・・否、「たら」、「れば」は無しだ。
これからどうにかしていけばいい。



新しくわかった事実から、また組み立てていけばいい。
手探りで。
自分という存在が不安定でも、あたしは、あたしだ。
自分で組み立てて、自分で納得する。
それしか無いもの。










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2006/1/27

ヒロインの秘密の1つがまた公開です。気付かないヒロインがアホ過ぎるのですが。
まぁ、夢中で、案外冷静さに欠けるという人間らしさということで(笑)
この先の展開も読める方には読めるのでしょうが・・・。
アッシュの一言を、否定というか、受け止めて反論することで何かこう、発見したようです(笑)