対等契約





15











話は後回しにして、町のみなさんをアルビオールに乗せる。
すぐにノエルが発進させてくれて、あたしたちは真上から、崩落を目の当たりにした。
・・・正直、ゾっとする。
あたしは窓から下を覗き込みながら、誰へとでもなく尋ねた。

「今はなんとか浮いてるって感じだけど・・・、どうしたらいいのかしら?」

「ホドの時は一月後に沈んだらしいけど。」

アニスも超無理!と叫んでいる。
でも、意地でも何とかしなくちゃいけない。
セフィロトをどうにかすれば、という話になり、ルークが矢継ぎ早に意見を並べる。
それをガイが嗜める。

「お前の気持ちもわかるが・・・。」

「わかんねぇよ!ガイにも、みんなにも・・・!」

「落ち着いて、ルーク。確かに貴方の言うことも一理ある。
気持ちがわかる、って言葉は・・・受け取り方も様々だから・・・。」

「でも、アクゼリュスを滅ぼしたのは俺なんだよ・・・!」

「ルーク、いい加減にしなさい。、貴女もですよ。
とりあえず、ユリアシティに行きましょう。」

結局、ルークがだだっこのようだと怒られ、あたしも怒られた。
貴女はいい加減、ルークを甘やかしすぎです、と。
みんなだって救いたいって気持ちはある、ルークも謝った。
あたしも、無神経に口出ししたことに謝った。

大佐に怒られて、別段、ショックとかはなかった。
確かに、自分でも、そういう態度を取ってるって、わかってるし。
でも、多分この態度は、変えられないんだと思う。

どんなに怒られても、どんなに罵られても。
この我侭だけは、通してしまうと思う。
さっき謝ったのは、みんなの前で無神経に口を出したことだ。
いつもみたいに、後で声をかける余裕もなかった自分に、呆れる。
多分、あたしも、混乱が収まってないんだ・・・あたし自身の問題に対する混乱が・・・。





「来ると思って待っていたよ。」

迎えてくれたテオロードさんに、ティアが協力を仰いでいる。
彼女は、ここのところ、こうして感情らしい感情を見せてくれて、
不謹慎だけどあたしは嬉しい。
焦って言葉を発するのは心配の証拠、彼女の優しさの証。

イオンの言葉で、話を始める前にセントビナーの方々を休ませるため、町の奥へ。
マクガヴァンさんが、行きかけて振り返った。

「ジェイドは滅多に人を叱ったりせんからな、お前さんたちを気に入っていればこそだ。」

その言葉に、あたしもルークも苦笑する。
先に行ってしまう大佐を、あたしは追いかけた。
ルークは、ティアに言いたいことがあるだろうと、察しがついていたから。

「おや、ルークを慰めなくていいんですか?」

大佐の嫌味に、あたしは笑う。

「その役目は別にあたしだけじゃないですからね。」

「・・・なるほど、そうですか。」

大佐の意味深な納得に、あたしはまた、苦笑する。



なんとかセントビナーを救う術を考えなければ。
会議室(?)でみんなが難しい話をしている中、あたしはイマイチ、ピンと来なかった。

「ともかく、泥の海に浮かせる、ってのが今出来る一番の解決法か・・・。」

「ええ、シュレーの丘のパッセージリングを操作するのが先決ね。」

ティアの言葉に一同頷く。
ともかく行ってみなければ分からない、ということでシュレーの丘へ。
ノエルにアルビオールを飛ばしてもらえばあっと言う間だ。



まったく、こういう建物には頭が痛い。
入るのにも、入った後にも素敵な仕掛けがお待ちかね、だ。
とりあえずユリア式封咒を解いてパッセージリングに戻る。
ティアにパッセージリングが反応する。

いけない、と思った。
彼女に負担が掛かりすぎるのはまずい。
・・・もしかして・・・。

「ティア、待って。手、繋いでもいい?」

「???」

構わないけど、とそう言って差し出された手をギュっと握る。
何やってんだ?という顔のルーク達。
無意味かもしれない、けど、やってみなければわからない。
もしかしたら・・・。



ルークが超振動で暗号を削って、何とかセントビナーは沈まなくて済むようだ。
しかし、安心するのはまだ早く、今度はエンゲーブ。
アニスがマジヤバだよ、と頭を抱えている。
アルビオールで外殻へ戻らなければ、ということで、あたしたちは外へ出る。

「ティア、体は大丈夫?」

「ええ、ちょっと疲れたみたいだけど・・・あの、。」

「聞きたいことがある、でしょ?わかってる。でも今は何も言えないの・・・。
ごめん。ただ、ああすれば、多分貴女の負担が減ると思って・・・。」

確信があったわけではないのだけれど、と続ける。

「やっぱり・・・は何か知っているのね。」

「うん。」

ごめん以外の言葉が見付からなくて、あたしはただ苦笑する。

「そう・・・でも、は大丈夫なの?」

ティアは・・・何も聞かなかった。
彼女も、とても優しいから。

「平気平気、こんだけ元気なんだから大丈夫よ。」



あの瞬間。
確かなことはわからなかったけど。
体に何か重いものが入った感覚・・・。
あんなの、あの倍をティアが抱えていたなんて・・・。



「ニ人とも大丈夫か?」

ルークの声に、そろって顔を上げた。
平気、大丈夫と、口を揃えるあたしたち。

「無理はするなよ。」

それにも、あたしたちは二人で苦笑した。



アルビオールで外殻に戻ると、勝手なことに戦争中。
ヴァンの狙い、がこれだ。
ともかく、何とかするために今度も二手に分かれることに。

エンゲーブ組みが大佐、ティア、ガイ、あたし
カイツール組みがナタリア、ルーク、アニス

今回は戦力バランスというよりは、国際関係重視というか・・・。
まぁ、半分は適当に決めちゃったわけだけど。

カイツーツ組みを途中で降ろして、あたしたちはエンゲーブへ。





「どちらに転んでもの心配は尽きないようですね。」

大佐のやれやれ、という態度に、あたしは笑う。

は心配するのが仕事みたいになってきてるな・・・。」

「まぁまぁ、ティアもルークが心配でしょうに。」

「そ、そんなこと無いわよ。」

照れる彼女に笑う一同。

「ま・・・向こうの方が安全だとは思う。」

ナタリアとルークがいる。それに、セシル少将やフリングス少将がいるのだ。
アニスと同行するイオンも、あっちの方が安全だろう。

とりあえず女性、子供達、お年寄りの方々優先でアルビオールに。
残りの村の方々を連れて、ケセドニアに向かう。



「見付からないように、なんて無理があるかもだけど、極力戦闘は避なくちゃね。
万一見付かったら逃げる、もしくは村の人たちに被害が出ないようにしなきゃ。」

「ああ、出来る限り注意して行動するしか無いな。」



何回かに分けて休憩を取りながら急いで進む。
前を大佐とティア。後ろをあたしとガイで挟みながら、進む進む。


「やっと到着か・・・。」

「流石に、全回避には至らなかったけど、重症者とかが出なくて本当に良かったね。」

「ま、おおむね成功でしょう。」

エンゲーブの皆さんを先に誘導。
あたしたちがそれに続いて進めば、向こうにルーク達が。



「停戦はどうなったんです?」

その言葉に、そうだった、と思う。
ケセドニアで合流する計画だったわけでも、なんでもないんだ。
驚くのも無理は無い。

モースがここにいる。
そうだ・・・ここでナタリアが・・・。

「ルーク達が無事で良かったわ。」

達はてっきりグランコクマかと・・・。」

いくら大佐がいるとはいえ、あの港が閉鎖されたら入れてはくれないだろう。
ま、ともくそれよりもモースとアルマンダイン伯爵だ。

ケセドニアの奥へ急げば。
居た、二人だ。
ナタリアとルークが必死に説得している。
あたしたちは出る幕が無い。
権力と発言力は、多分等しいに近いのだ・・・どこの世界でも、ね。
イオンは冷静に様子を伺っている、という顔つき。

崩落の危険性を伝えても顔色を変えない、むしろニヤニヤしているモース。
そして、あの発言。

「偽の姫に臣下の礼を取る必要はありませんぞ。」

全員驚いてナタリアの方を見る。

「無礼者!」

流石にナタリアが言い返すが、モースはどんどん話を進める。
口を挟めるような状況じゃない、空気がピリピリしている。



「・・・馬鹿みたいね。髪の色?目の色?血縁?
そんなもん、その人の存在を理解するときの、他人の勝手な見解じゃない。
関係性も思い出も、そんなもんから生まれて来ないのよ。
そんなのもわかんないで良く大詠師なんて務まるわね!」



いい加減聞いてるのがウザくなったあたしの発言に。
一瞬場の空気が重くなる。

「何だそこの無礼な小娘は!・・・まぁいい、今は戦争だ・・・。」

崩落のこともどうでも良いかのように呟く。
今度は殴ってやろうか、といきり立ったあたしを止めたのは、
イオンの一言だった。

「私は一度ダアトに戻ります。」

「ちょっと、イオンそれはまずいよ!」

モースもヴァンにはこれ以上勝手はさせないというが、
可哀想に、この男もも立場をわかっちゃいない。
万一のことがあるから、そう素直にイオンを行かせたくないのだ・・・。

アニスが導師守護役を解任され、イオンがアニスに指示を出している。

「イオン、気を付けて・・・、何かあったらあたしが・・・。
ううん、あたし達が絶対駆けつけるからね。」

信頼していても、分かれるのが怖いと思うくらいだ・・・。
まして、イオンと、こうして別れるのに、凄く不安を感じる。
大丈夫、まだ大丈夫なはず・・・。





仕方無くイオンと別れた。落ち込んでいる暇なんて与えちゃくれない。
イオンのこともそうだが、ナタリアも心配だ。
とにかく、状況をなんとかするにはバチカルに行くしか選択肢が無い。

「ナタリア、無理してるって・・・わかってても進まなきゃいけなくて・・・。本当に・・・ごめんね。」

辛いって知ってる、ショックだってわかってる。
それでも、こんな風に時間は待ってくれなくて。
今までもそうだったけど、これからもこんな思いをしていくんだ・・・みんな・・・。

「気を使って下さってありがとう・・・先ほどは私のために怒って下さったのでしょう?
は優しいですわ・・・下手をすればモースに訴えられていたかもしれませんのに。」

「・・・大丈夫、それで捕まっても、何をしたって逃げ出してみせるわ。」

「・・・強いのですわね・・・貴女は・・・。」

項垂れる彼女に、あたしは強くないよ、と呟いた。
自分を保つために強がりを言っているだけ。
我侭放題、前に進だけ。





血の繋がりが何なの。
そんなの関係無いでしょ、って・・・。
血の繋がりを持つ人には・・・中々難しいことなのかしら。
あたしには、それがわからないのだけれど・・・。










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2006/1/21

執筆がまた空いてしまいました。うちのヒロインは以前チラっと出しましたが孤児院育ちですので。
イマイチ、家族の愛情というのが、わからないんですよね、羨ましいと思う気持ちはあるんですが。
まぁ、家族の愛情なんていらない派ではなく、愛情の愛情か・・・あったら違う自分(ヒロイン)があったかな、と。
そんな感じで、理解しきれなくて困ったり、苦しんだりすると思います。