対等契約
14
グランコクマに到着すると、フリングス少将がお出迎えしてくれた。
死ぬとわかっている人に会うことで、自分の心に鉛を乗せられていくようなこの感覚。
あたしはこの感覚を背負ってでも、ここから逃げない、それだけは心に決めている。
ガイのカースロットを解呪するために、イオンはガイと宿屋へ、アニスもそれに付き添うことに。
イオンがルークに、カースロットについて話した。
「ちょっと、一人にしてくれ・・・。」
「ルーク、思いつめちゃだめだよ。貴方は一人じゃないってこと、忘れないでね。
理由があることなら、その理由を知ればいい。ね、そうでしょう?
出来ることがあるうちは、まずそれから。聞きたいことは聞く。
何度も同じこと言うようで悪いけど、きっと大事なことだから・・・。」
それだけ言って、あたしは単独行動。
後はティアとミュウにまかせる。
あたしがでしゃばる場面じゃない・・・。
あたしは先の方に行くと、ぼんやりと海を眺めていた。
ここにあたしが存在しているということで、どれくらい変わることがあるんだろう。
来てからは、こらからどうするかばっかり考えてあんまりゆっくり結果を考えたことがなかった。
契約、か・・・ローレライも素直に教えてくれればいいのに、隠してるのかな?
あたしがレプリカだってことも知らなかったみたいだし、意味深なことばっかり言うし。
・・・ともかく、だ。折角この世界に居るからには、何とかしたいことがいっぱいある。
契約がどんなものかは知らない、直感を頼りに手探りで今まで来た。
助けられる命を、あたしは見捨ててしまった。
許してくださいとも言わないし、ごめんなさいも言わない。
その代わり、あたしは精一杯、出来ることをする。
例え、いつかあたしが一人になったとしても。
案外すぐ話が終わったのだろう、みんなが来るのが見えた。
「早かったのね。」
「・・・その、ありがとう。」
「勿体無い言葉ね、こちらこそありがとう・・・。」
城の前に行くとフリングス少将が待っててくれた。
捕虜と言いながらもすんなり謁見の間へ。
今更思い出したけど、これ、陛下のメイド服だったんだ・・・。
フリル取ったの怒られたらどうしようと出来るだけ目立たないように後ろにいた。
セントビナーの話になり、ルークとナタリアが死んだことになってることがわかった。
これからとんでもないことになるんだ。
ナタリアの言葉に、根っからの姫だなぁとつくづく思う。
ルークの言葉にも、やっぱり重みがある。
話が終わってぞろぞろ出て行こうという時になった。
「随分おとなしかったじゃないですか。」
「げ、大佐。ちょ、折角人が目立たないようにと・・・!」
こっそりしていたのに、陛下のところに突き出された。
「なるほど、よく似合ってるじゃないか、ジェイドから話は聞いてる。だな。」
「・・・そ、そうです。勝手にお借りした上に手を加えて申し訳ありません。」
正直、ドキドキして仕方が無かった。
この人は、あたしもどことなく苦手だ・・・。
「いいさ、その方が似合ってる。」
大佐も笑って、良かったですねーと言っている。
人事だ。
大佐も行ってしまうし、あたしも追いかけようと思ったが、ふと思い出して陛下に尋ねた。
「あの、変なことを聞いて申し訳ないのですが・・・
この服のポケットに旅券が入ってたんですけど、陛下がお入れになりましたか?」
「いいや、俺は知らないが・・・。」
「あ、ならいいんです。変なことを聞いてごめんなさい。」
失礼します!とだけ言って急いでみんなの後を追いかける。
やっぱり・・・やっぱり陛下じゃなかった。
きっと、直感だけどローレライでもない。
もしかして、あたしがここに来ることは・・・他の誰かに知られていた?
旅券がポケットから出てきたときは、あまりにも都合が良すぎて気味が悪かった。
それに、制服のポケットにあったキャパシティ・コアもだ。
あの時以来話題にも上らないけど、ずっと気にしてはいた。
・・・まだ、謎が多すぎて答えは出せないけど、何故かそんな気がしてならなかった。
でも、一体誰が?
宿屋に着くと兵士さんが解呪が済んだと教えてくれた。
あたしは黙ってルークとガイの話を聞いていた。
「さぁて、話も済んだことですしセントビナーへ行きますか。」
イオンも行くということ。
「どこにいても危険は一緒だからな。」
「ええ、むしろ、一緒に居た方が安全かもしれない。
体には気をつけてね、イオン。」
アニスはイオン様の馬鹿と怒っていたが、まあまあとなだめる。
あたしたちはセントビナーに急ぐことに。
ぼんやり歩いてると、ガイに声をかけられた。
最近、あたしはこんな感じでぼんやりして、話かけられることばっかりだ。
「、腕大丈夫か?イオンから聞いて・・・悪かったな。」
「ガイが悪いんじゃないよ、あたしが無意味に飛び出しただけだし、
傷も大したことなかったから、むしろ・・・そのせいでガイが気にするんじゃないか、
って、あたしにはその方がちょっと辛い。」
本音。
臆病で、我侭な人間の、本音だ。
「お前はもちろん悪くない。って言ってたら埒が明かないな。
とにかく、君に大怪我させなくて良かったよ。」
「うん、ありがとう。そう言ってもらえると助かる。」
ありがたかった。
優しさは時に、とても痛いものだ。
セントビナーに着いて、マクガヴァンさんに会いに行くと、既に話は進んでいた。
時間が無いから急いで話をつけて、あたしたちも避難の手伝いに加わることに。
ルークの頑張っている後姿に、みんなは関心していたけど。
あたしはその背中を見ると痛々しかった。
アクゼリュスのことを思い出して苦しいでしょう?辛いでしょう?
貴方はそれを口にしない。
避難を手伝っていると、門のところに招かれざる客。
ディストだ。
逃げ遅れた男の子をルークが助ける。
「ようやく見つけましたよ、ジェイド。」
大佐とディストがやりあっている。
ネビリム先生の話題が出たことに、あたしとルークは顔を歪めた。
「とにかくイオンを渡すわけにはいかないわ、虫けら呼ばわりもやめて頂戴。」
「まったく煩いですね・・・ん?貴女は・・・!?」
今初めて気付きました、と言った感じであたしを見て、そう呟く。
流石に名前を呼ばれたことには驚かなかった。
「何を驚いているんです?まったく、貴方がフォミクリーをかけたのではないんですか?」
大佐も呆れ顔だ。
「・・・確かに、レプリカ情報を抜きました・・・しかし、レプリカは出来なかった。
そして、オリジナルの貴女は死んだ、と思っていましたが・・・まぁいいでしょう。」
「「!?」」
あたし・・・レプリカじゃないの?
オリジナルは死んだ?
一体どういうこと!?
「ちょ、一体どういうことなの!?」
聞きたいことは山々だったのだが、カイザーディストが襲い掛かってくる。
案外あっけなくやられたディストは(まぁ本人が負けたわけじゃないけど)捨て台詞を吐いてさっさと飛んでいってしまった。
つーかあの椅子マジで謎だし、むしろあたしにくれ。
って、そんな馬鹿なことを言っているわけじゃないわけで。
「・・・な、何がなんだかわからなくなってきました。」
「・・・とにかく、ディストの話を聞く限りはレプリカではないようですね。
他人の空似・・・とは考えにくいですが・・・。」
大佐にもわかるわけがない、ディストに詳しいことを聞ければよかったけど・・・。
そんなことを話している場合ではなく、地盤沈下が始まってしまった。
空を飛べる音機関を何とか借りてこようということになり、シェリダンへ向かうことに。
とにかくタルタロスに向かい、あたしたちはシェリダンへ。
「でも、がレプリカじゃないとか、オリジナルは死んだはずとか・・・。
どうも仮定が多すぎて、ディストからの情報だけでは不明確ね。」
ティアも首を傾げる。
「うん、まぁレプリカでも、そうでなくてもあたしには関係ないからいいんだけど、
オリジナルが本当に死んだのか、とかは知りたかったなぁ・・・。」
あたしがどうのこうの、より、オリジナルが気になる。
だって、アッシュと会ったのは彼女だったわけで。
やっぱり、死んでたってことになると・・・それは複雑な気分だ。
そもそも、オリジナルのあたしとアッシュがいつ接触がなくなったのかも、聞いてないし。
「なんだかの謎は深まるばかりだね。」
アニスの言葉に、あたしも頷く。
「本当に、普通解決していってくれるはずなのにね・・・。」
「まぁ、またディストに会う機会があったら問い詰めましょう。」
「それに、アッシュも何か知っているかもしれませんわね。」
大佐とナタリアの言葉を聞いて、それしか無いものね、と返事をする。
2人を問い詰めても、なんで向こうの世界から来たのか(もしくは行ったのか?)
についてはわかりそうもないけど、せめてオリジナルのことだけでも知りたい。
なんとなく、知らなきゃいけない気がしたのだ。
シェリダンに着くと、アルビオール(with ギンジさん)が墜落だということで大騒ぎだった。
イエモンさんたちに話をつけて、あたしたちがアルビオール&ギンジさんの救出に行くことに。
これにも人命が掛かっている。急がなくちゃ。
今出来ることをする、あたしもルークの背中を追いかけているだけ、かもしれない。
砂っぽい大地を踏みしめて歩けば、メジオラ高原はあっと言う間だった。
「ちょ、あれ間に合うの!?」
「・・・急がないとまずいですね。」
「ともかく、落ちたらギンジさんも死んじゃうかもしれないし、浮遊機関も危ない、か。
ってことは二手に分かれないとだめね。」
「そうね。」
チーム編成はルーク、ナタリア、ジェイド、あたし。
ガイ、アニス、ティアってことでバランス重視。
「、ドジらないでね!」
「な、なんであたし名指し・・・。」
アニスの突っ込みに頭を垂れる。
そもそもジェイドがいるから、あたしがドジっても何も影響は無い気もしたが、
まぁここはおとなしく黙っておいた。
「なんだか不思議な気分だね、こうして別行動すると。」
「信頼してはいますけど、分かれるとなると不安になるものですわね。」
「ん、やっぱ長々旅すれば慣れてるメンバーと離れるのって、確かにね。」
あたしとナタリアが2人の後を喋りながら走っている・・・と。
「何だ!?」
何かの鳴き声にルークが立ち止まる。
「後ろ!」
「後ろです!」
あたしと大佐が叫ぶのは同時だった。
こっちに来て確かにモンスターにはなれたけど、恐竜?のお出ましとは。
戦力的に4人のあたしたちの方でよかった、と思う。
サイズが大きいと攻撃を当てやすい。
あたしとルークが突っ込んで、ナタリアとジェイドが援護。
何とか片付いた。
「向こうにもあんなの行ってないといいけどね・・・。」
「今は信じて急ぐしかないでしょう、行きますよ、。」
「はい。」
気になって振り返るあたしを、大佐が促した。
あたしたちが目的の場所に着けば、ガイ達は既に着いていた。
無駄な説明は後回しで、アルビオールを固定、無事ギンジさんを助けることが出来た。
「助けて下さってありがとうございます。」
「無事で何よりです。」
と、礼儀正しいギンジさん。
彼の体も心配だが、こちらも時間が無い。
あたしたちは急いでシェリダンに戻った。
うっかり兵士に見付かって、ジェイドがマルクト軍だってバレた(まぁ仕方無い)
ガイが何とか扉を押さえてくれてるが、持ちそうに無い。
ここは申し訳ないけどイエモンさんたちにお願いして、
急いでアルビオール(2号機)に乗り込むことに。
「みなさん、どうかお気をつけて。」
「後は頼みます!」
アルビオールの中では、ノエルが待っていてくれた。
彼女を悲しませるような結果にならずに済んで、ちょっとホッとしている。
「私は2号機操縦士ノエル、ギンジの妹です。
兄に代わってみなさんをセントビナーにお送りします。」
「よろしくね、ノエル。」
「はい。」
ノエルがセントビナーまで操縦してくれている間に、あたしたちは簡易自己紹介を終えた。
それからさっきの救出劇のお互いの行動についての話題になる。
「ええ!?そんなことになってたの?」
アニスが叫ぶ。
「全く、まさかあんなのが出てくるとは思わなかったわよ。」
さっきの恐竜のことだ。
「まぁ、とにかく達が無事でよかったよ。」
「こっちは何事も無く済んだものね。」
ちょっと遅くて心配したのよ、というティアの言葉にありがとう、と返す。
「兄も含め、皆さんが無事でなによりです。」
それからすぐ、ノエルがもうすぐ到着します、と告げてくれたので、
あたしたちは気を引き締めた。
タルタロスの一部をもらって、生まれたアルビオール・・・か。
イエモンさんたちが、大怪我とかしてなければいいけど・・・。
こういう非常時、人間は選択を余儀なくされる。
仕方が無く、どちらかを選ぶか、両方捨てるか・・・。
大概はそれしか無い。
あたしも目を瞑ってきてしまった現実がある。
でも、忘れないでいよう。
次に選ぶ時、それが最善であったと、自信を持てる選択をする、ってことを。
選んでいるのはあたしだ。
レプリカだとか、オリジナルだとか、そんなのは関係無い。
今、すべきことをまず優先させなければ。
アルビオールが着陸すると共に、あたしたちは飛び出した。
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2006/1/16
ヒロインも何がなんだかわからない、という状態です。
でも、案外そこに無頓着なので、今は優先すべきことを、優先という感じで・・・。
この先も相変わらずヒロイン視点なので余計ブツブツヒロインの発言が増えますが(苦笑)
ネガティブ方向がどんな風になっていくのやらですね(;´Д`)