対等契約
13
またこのメンバーで旅が出来るね、と道中の話題。
ルークがジェイドとアニスに散々に言われて、イオンが反論している。
「ルークは元々とても優しかった。ただ、それを表に出す方法を良くしらなかったのです。」
「あたしもイオンの言う通りだと思うわ、その点については、ね。」
ルークが照れて(あたしにではなくイオンに)、これからの俺を見てくれれば良いと言った。
ルークはそう、ちゃんと優しかった。
ただ、それは良く注意しなければ優しさと捉えられない、勿体無いものだった。
でも彼は変わるのだ。
第4譜石のところまで来た。
どうするか散々意見が出たけれど、とりあえずグランコクマへ。
ダアト港に着くと、グランコクマの港は戦争の近い今入港が危険とのこと。
イオンの提案で、ローテルロー橋に接岸した後徒歩、ということになった。
アニスがげんなりしている。まぁ、これも自分を鍛えると思って、気合よ気合。
「そういえば、ナギサのそのペンダントはキャパシティ・コアですか?」
イオンが思い出したように聞いてきた。
「そう、みたいだけど、なんかもとの服、えと、制服のポケットに入ってたんだよね。」
「ちょっと見せて頂けますか?」
「うん、どーぞ。」
そう言って渡す。
「これは・・・僕も見たことが無いものですね・・・悲壮な、という意味だと思いますが。」
悲壮な・・・か。あんまり嬉しい形容じゃないけど。
みんなも見たことが無いもののようだった。
珍しいものなのか、と納得していると、ガタンと大きくタルタロスが揺れた。
「きゃ!一体何ですの!?」
ナタリアが悲鳴を上げる。
「故障・・・かもね。」
「ええ、ちょっと見てきます。」
いきなりの大揺れにうっかり忘れてて素で驚いた。
グランコクマへ向かう途中、ハプニング発生。
タルタロスの機関部が故障らしい。
ガイの応急処置で何とかなるも、ケテルブルクに寄ることになった。
「ジェイドはここの生まれなのか。」
寒いので息が白くなりながら、ルークがへー、と呟いた。
「雪国は銀世界にあこがれるけど・・・さ、寒い。」
「確かにこの寒さは厳しいですね。」
「やイオンの体調のこともありますし、町へ急ぎましょう。」
あたしもイオンも、ご迷惑お掛けします、と声が被って、一同笑ってしまった。
ケテルブルクは例のホテルが目立つからすぐわかった。
とりあえず買い物やら何やらは後回し、道中陛下の話で盛り上がったりしながら、
あたしたちは知事の家にお邪魔することに。
大佐の妹さんとご対面、だ。
マジかよ!?とルークが素っ頓狂な声を挙げ、みんなも驚いて大佐を見る。
そんなことはお構い無しで大佐が話しを進めた。
「みなさんも準備が整うまでしばらくお待ち下さい。
宿をお取りしておきますね。」
「お世話になります。」
ここでルークが呼び止められるだろうと思い、
あたしも出ていくみんなの後を追おうとしたら、一緒に呼び止められた。
「お話があるので、後ほどお2人でいらして頂けますか?」
「え、あの・・・あたしもですか?」
自分の顔を指差して、ネフリーさんに尋ねる。
「ええ、貴女にも聞いて頂きたいことですので。」
「わかりました、では、後程。」
ルークをひっぱってみんなを追いかける。
宿に着くと、ルークが「あ!」と叫んだので、しまった!と思った。
どう考えても棒読みのセリフ。忘れ物って何を忘れるのよあんた・・・。
あたしは頭を抱えた。大佐の痛い視線(・・・。)
「・・・あたしが一緒に付き合うから、ほらさっさと行くわよルーク。」
「あ、ああ。」
俺も行こうか、というガイの発言を制して、あたしが話しを適当にごまかす。
うしろからミュウがちょこちょこ着いて来たようだが、ここは妥協。
背中を押して宿の外に出て少し進むと、あたしはおもいっきりルークの背中をど突いた。
「ってぇ、何だよ!?」
「もうちょいマトモな嘘はつけんのか!」
「しょーがないだろ、思いつかなかったんだから・・・。」
まぁ、多分、どう転んでも大佐にはバレてただろうからなぁ。
お待たせするのも悪いので、急いで知事のところに行った。
「お2人がレプリカだと聞いて、兄のことをお話しておかなければと思ったんです。」
あたしは一度聞いている話だし、黙って聞いていた。
ルークは時々驚いていたけど・・・無理もない、か、大佐が9歳のときとか、普通に驚くしね。
確かに、大佐にそんな過去があるなんて、あたしも思いもしなかったし・・・。
まぁ、秘密の香りはしないでもなかったけど。
ネフリーさんは、本当にお兄さん想いなんだな、と感じた。
本当に想っていない人を心配する人間なんて、あたしは居ないと思ってる。
「はさ、あんまり驚かなかったみたいだな。」
ホテルへの帰り道、核心を突かれたようで一瞬ドキっとする。
「そう・・・ね、全く驚かなかったわけじゃないけど、過去は色々だから・・・。」
フロントに着けば、大佐が待ち構えていてくれた。
ルークが言葉を濁そうとしたが、大佐にバレて叱られる、あたしは正直に話を聞いたことを伝えた。
「レプリカに過去の記憶はありません、だから許してくれようがない。」
その言葉であたしはハッとした。
アッシュの話からあたしがレプリカにされたのって、せいぜい10歳以降じゃない。
・・・どういうことだろう、確かにあたしの記憶はある。
10歳なんて、普通に小学校に通ってたじゃない・・・。
・・・一体どうなってるの?
「。」
「・・・え?あ、はい!」
気付けば話は終わったようだ。
「ちょっと話があります。」
「じゃ、俺は先に戻るな。」
あたしはルークの背中を見送ると、大佐の方に向き直った。
「あの、お話って?」
「貴女も何か思うところがあるのでしょう?」
その言葉に、あたしは苦笑する。
この人に隠し事なんて出来ないのかもしれない。
「・・・あたしには過去の記憶があるから、おかしいなって、思ってたんです。
この記憶が偽物だとは思っていません、でも答えが思いつかなくて・・・。」
自分の生きてきた記憶を否定する気だけは無い。
ただ、どうしてこうも、矛盾というか、答えが出ないのかに不安を覚えているのだ。
「ふむ・・・貴女に記憶があるというのは、貴女が別の世界で生活していたことに何か関連があるのかもしれませんね。
私もはっきりと言えませんが・・・まぁ、ディストを問い詰める機会でもあれば別ですが。」
「確かに・・・彼に聞けば何かわかるかもしれませんね。」
そういえば、あたしの研究はディストの個人的なものだったらしい。
すっかり忘れていたけれど、あたしは一回会い逃してるんだった、船で。
あたしと大佐の話はその辺で打ち切りになり、あたしたちはそれぞれ寝室に戻った。
布団に入るとすぐに寝付いたはずが、気がつくとまた、あの真っ暗な空間。
アクゼリュス以来久しぶりの対面(顔はみてないけど)だ。
「久しぶりね。今回は何の用?って、あたしが呼んでるんだったっけ。
それより、ローレライはあたしがレプリカだって知ってたの?」
これは、聞かなきゃいけない点だった。
「レプリカ?」
「何だ、知らないのか。アッシュに対するルーク、みたいな感じなんだけど。
って、説明するまでも無いか、知ってるだろうし。」
「我は今も昔も、お前の呼びかけに応えてきただけだ。」
「え、昔?昔っていつ?」
「お前が生まれた、その時からであろう?」
その疑問に、あたしは首を傾げる。
聞かれたってあたしにその自覚がないみたいだからわからない。
大体ちっとも話が見えてこない。
その件についてローレライに文句を言おうと思ったところで目が覚めた。
気だるさは相変わらずだ。
「おはよう、。相変わらずの寝起きだねー。」
「まったくですわ、寝つきが悪いようでしたらあの時一緒にお薬を出して頂けば良かったのではなくて?」
「またベルケンドに行ったら診てもらった方がいいわよ、。」
「うん、ご心配、ありがとう。機会があったらね。」
みんなの優しい言葉に元気付けられる。
言葉には魔力がある、ってあながち嘘じゃないのかな?
支度を済ませてみんなで1階に下りる。
ネフリーさんが来てくれていて、タルタロスが万全になったとのこと。
とりあえずローテルロー橋を目指すことに。
港へ向かう途中、ルークが寄ってきたので、多分大佐の話だろうと思った。
むしろ、あたしと大佐が昨日話してたことかも、とか思っていたわけで。
「、大丈夫か?」
「え?」
「いや、あんま顔色良く無さそうだから・・・朝、いつもだけど。」
「ん、心配してくれてありがとう。そんなことより聞きたいことがあるんじゃないの?」
あたしは苦笑した。
心配する前に心配されてしまった・・・ちょっと情けない。
「あ、ああ、ジェイドのことで・・・。」
「・・・あたしにも、難しくて、正直わからないけど。ただ、万一大佐に何か困ることがあったら、
あたしたちが仲間として全力で協力すればいいんだよ。状況を知って、理解するだけが解決じゃないでしょう?
ルークも出来ることから、やるんだよね?だから、あたしたちも出来ることからしていこう?」
「そうだよな・・・聞けるのしかいないと思って。答えばっかり求めて、情けないよな・・・俺。」
そういってしょげるルークに、あたしは笑った。
「あはは、何言ってるの。聞きたいことは聞けるときに聞いておくことだよ。
例えそれで、本当に聞きたいことを聞くことができなかったとしても、その方がいい。
せめて聞いておけばよかったって。後悔するよりずっといいって、わかってるんでしょう?
「・・・。」
「大丈夫だよ、ルーク。ほら、自信を持つ!」
不安なんだよね、まだルークも不安なんだ・・・。
あたしも不安だけど、きっとルークはもっとだ。
難しい話を聞けば、ルークは優しいから・・・困ってしまうよね。
あたしに今出来ることは、こんな風に声をかけてあげることしかないの・・・。
ごめんね・・・。
励ましていたら大佐が釘を刺しに来た。
「はともかく、ルークについては非常に心配です。」
というので、あたしは笑ってしまった。
あたしもルークもお仕置きは勘弁、もちろんミュウもだ。
完全復帰のタルタロスに乗り込めば、ローテルロー橋へはあっと言う間に到着。
テオルの森の入り口で、ジェイドが見張りのマルクト兵話しかけて、あたしたちは待機に。
「仕方ないとはいえ置いてけぼりかー。」
「イオン様をお通ししないなんて(ブツブツ)」
ドス、ドスっと、アニスが殴ってる木にあたしも殴りを入れる。(ストレス解消)
「おいおい、アニス、頼むから折らないでくれよ。」
「「・・・はーい。」」
ガイに叱られ、あたしもアニスも渋々返事。
すると、森の奥から悲鳴が聞こえた。
慌てて入り口へ向かえばマルクト兵が倒れていて、あわてて駆け寄る。
どうやらオラクル兵が来ているようだ。
行ってみなきゃわからないので、仕方無く森に突入することに。
「かくれんぼか、イオン様ドジらないでくださいね・・・も。」
「え、あたしも!?」
「確かにも妙にドジなところがあるからなぁ。」
「ルークに言われたくない・・・。」
戦いにならないようにこっそり進むのは、正直この人数じゃ厳しかったけど、何とか出口へ。
オラクル兵が見当たらない・・・ナタリアがまた倒れていたマルクト兵を見つけた。
流石に旅慣れてきていただけあって、ラルゴに反射的に矢を射る。
ここからどうなるのか、ハッと思い出してあたしはルークを庇う。
ティアも殺気に気付いたからか、あたしたちは三人でドサっと避けた。
あたしが余計なことをしてしまったせいで、ルークが立ち上がるのが遅れた。
ザッ。っと嫌な音。
「!」
「大丈夫、ちょっとかすっただけよ。」
左腕を掠めただけ、これくらいで済んで良かった。
自分が飛び出すことが、必ずしも良い結果を生まないって、もっと考えるべきだったかな。
「どこかにシンクがいるはずです!」
イオンの言葉にあたしは頷く。
ラルゴも襲い掛かってくるが、ナタリアが応戦。
父親としてどんな気持ちなんだろう・・・。
地震のおかげでシンクの居場所がわかり、ティアの指示でナタリアが射る。
ガイが倒れた。
「我々は導師イオンが必要なのだ。」
「必要だって言われて、はいそうですかって渡すわけないでしょうが。
イオンは物じゃないのよ、馬鹿にしないで。」
ラルゴの発言にカチンときて言い返す。
シンクもアッシュやイオンを馬鹿にする。
この子は・・・一体どんな気持ちで生きてるんだろう・・・。
「それから、シンク。残念だけど、ここに「レプリカ」さんなんて人はいないんでね。
お探しだったら、どっか他を当たって頂戴な。」
「フン・・・煩い女だ。」
あたしの嫌味にシンクもカチンときたようだったが、お喋りはそこまででマルクト兵がやってきた。
事情を説明して、とにかくおとなしくグランコクマに連行されることに。
連行中はお喋り、というわけにもいかないわけで。
あたしはただただ、さっきのことを考えていた。
でしゃばって、こういう結果になる、馬鹿だなぁ、あたし。
よく考えて行動しなきゃ、って思っても、ついつい体が先走ったり、口出ししてしまう。
あたしが怪我をしたことはいい。
でも、それでみんなに心配かけたり、迷惑をかけるのが一番嫌だった。
ティアに応急処置をしてもらった腕を眺めて、漠然としない気持ちで、あたしの足はグランコクマに向かっていた。
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2006/1/14
時間が空いたせいでなかなか書き方が落ちつかず困りました。
一応、書けるようになったつもりではあるので続きを。
レプリカって呼ばれることに対して、ヒロインは全く無視です。
しかし、このネガティブ傾向はどんどん酷くなっていくと思いますので・・・。