対等契約





12











微妙に気まずい雰囲気の中、アニスが声を上げた。

「あれ?見て!チーグルがいるよ!」

「おそらく、フォミクリーの実験に使われたのでしょう。」

アニスとナタリアがコンコンと鉄格子を叩けば火を吹いた。
奥の1匹が弱っている。

「レプリカは能力が劣化することも多いんです、の前でこう言うのは失礼かもしれませんが。」

「いいよ、そもそも劣化前の能力も知らないし。」

「でも、このひ弱な子がオリジナルみたい・・・。」

「ふむ、レプリカ情報を採取した際、オリジナルに悪影響が起きることもありますから。」

そこでアッシュが黙る。
ああ、そうだ。ルークと繋がってるんだものね。
アッシュが口に出さないからうっかり忘れてた・・・。
じゃ、あたしがレプリカってことも伝わったわけか。
どう・・・顔をあわせるべきなのか、・・・考えとかなきゃなぁ。
そういえばこっちに来て、あたしが知らないことで大きなことなんてこれが初めて。
現実ならそうであって当然なはずなのに、あたしは「知っている現実」に慣れすぎていたのだ。
ルークによく考えろ、なんて言う前に、あたしが考えなきゃ、よね・・・。



「タルタロスに戻りましょう。」

一応完全同位体には他の現象が考えられるという話題にはなったが。
とりあえず大丈夫なはず、ということで話は落ち着く。
他の事象って・・・コンタミネーション現象?・・・。
アッシュは、この時にも・・・時間がないって思ってたのかな・・・。
背中を見つめたところで、何もわからない・・・。

「!!」

あたしの悩みなんてボスは待っちゃくれないわけで。
クラゲの巨大化バージョンのボス、アッシュもいるおかげで、片付くのはあっという間。
タルタロスのところに戻れば地震だ。
アッシュによると次はセントビナーが崩落するらしい。

「お前達を送ってやる。」

というアッシュの言葉に素直にうなずいて、あたしたちはタルタロスに乗った。
まぁ目的地はダアトなわけで、あたしはこっそり甲板に出たわけで。
アッシュに話がある、と言われたときはオイオイと思った。
オリジナルの話、か・・・。

「来たか。」

「まぁ無視するわけにいかないからね。話の前にまず謝っとくわ、ごめん。」

「・・・何の真似だ?」

「や、ほら。貴方と最初にマトモに会った工場のことろで、あたしの名前呼んだじゃない?
あんまりにもびっくりして、どうして名前知ってるの、って言ったでしょ。
あれ、もしかしたら貴方を傷つけたかな、って思っただけ・・・。」

これは傲慢だ。
でも、事実は事実。
そんなそぶりはみせなくたって、アッシュも傷つくことがあって当然だ。
オリジナルのあたしと、彼がどんな関係だったかは知らないけどね。

「・・・フン。それより・・・お前さっき別の世界がどうとか言われてたな。」

「え・・・?ああ!そうだったね、アッシュは知らないんだわ、あたしのこと。
あたしね、この世界じゃない、別の世界からこっちに落っこちてきたのよ。
まぁ、信じろって言って信じられる話じゃないだろうけどさ。」

「・・・そうか。」

「意味深・・・話ってまさかそれだけ?・・・オリジナルのあたしって、どんなだった?」

「少なくともお前よりはマトモな性格をしていた。」

「むか!なんだそれ・・・って、まぁあたしが怒ったところでどーにもならないけどね。」

「・・・俺が誘拐されてからすぐの頃だ、オリジナルのお前に会ったのは。
最も、そのころアイツもレプリカ研究の材料になってた、なんぞ思いもしなかったがな。」

「・・・そう、ああ、あともう一つ。名前、同じで悪いわね。
恨むならあたしの世界の両親ってやつを恨んで頂戴。
あたしはこの名前を捨てるつもりは無いんでね。」

「お前はあの屑よりマシなようだな。」

「・・・お褒めの言葉として受け取っておくわ。」

・・・これ以上聞く必要もなければ、聞いたところで仕方が無い。
あたしは「」だけど、名前が同じ、顔すら同じオリジナルの「」とは違う。
それでいいんだ。
今は、それで十分。

もうすぐダアトに着きますよというジェイドの声であたし達は別々にブリッジに戻った。
まぁ、人目もあるし、それがいいと思ったから。
イオンには、みんなの前であたしがレプリカだってことを話しておいた。
イオンはびっくりして考え込んで、励ましてくれた。

「僕は・・・が顔に出さないから心配です。辛かったら言って下さいね・・・。」

「・・・ありがとう、イオン・・・。」

そんな心配そうな顔であたしを見ないでよ。
あたしがイオンのために泣きたいよ。
否、ために、そんな言葉は傲慢でしかないのかもしれない。
イオンを想って、泣きたい・・・と心底想った。



港からダアトに行くって時になって、あたしは大佐と残る、と言った。
捕まるのもそれはそれでいいかもしれないけど(ダアトの中を探れるし)
それよりは、ルーク達と合流して外から攻めるのが性に合ってる。
捕まってハイそうですか、と我慢できるたちじゃないから。
結局イオンとナタリアが捕まったって、アニスから報告を受けた。
ダアトの偵察は彼女にまかせて、あたしは大佐とアラミス湧水道まで行くことになった。



そういえば、大佐と2人きりで行動なんてあまりなかったかも。
タルタロスの調整をしている間に、あたしは洗濯し終えた服に着替えた。
このワンピース状態のメイド服にも慣れたわけで、
忘れたキャパシティコア?のペンダントも外に出した。
コレを制服のポケットから取り出したころが、何て懐かしいんだろう。


「おや、。いつの間にペンダントなんて拾ったんです?」

「ひ、拾ったって・・・大佐、あたしを何だと。」

「私からすればまだまだ子供としか言い様がありませんね。」

いや、子供とかそういう前に・・・もういいや。

「・・・。いえ、これは以前から持ってたんですけど、うっかり外に付けるの忘れてました。」

あたしは、大佐がすぐに気づいたことに少々驚いた。
まぁ、アクセサリーとして別段珍しくもないようだし、話はそれだけ。

「でも、間に合うといいですね、行き違いにならなきゃいいですけど。」

「そうですね。まぁ、通るならこの道でしょうし、行くならダアトでしょうから。
どこかで捕まえられることは間違いないでしょうが・・・まだ、ならですが。」

「ええ。急ぎましょう。」





大して時間がかからずに湧水道に着いた時、丁度奥から人影。
良かった、間に合って。

「うわぁ!?」

「ジェイドに!?」

「良かったわ、入れ違いにならずに済んで。」

ま、大丈夫とは思ってたけど。
あたしっていう不安定要素もあるから、正直この先が不安、なのだ。

「一体どうしたの?」

「イオンとナタリアがモースに監禁されちゃったのよ!」

「なんだって!?」

「おや、貴方もいらっしゃいましたか。」

「大佐!」

気持ちはわからなくは無い。
でも、あたしは知っているだけあって、黙っていられないのだ。
大佐はあたしにやれやれ、という顔をしたが、
何にせよ2人を助けないと大変なことになる。
ナタリアを戦争の口実になんて、されちゃたまったものじゃない。
ただでさえ・・・そう、彼女にもまた辛い現実が待っているのだから・・・。

「ともかく戦争なんて起こしてたまるか、だな。」

「ガイの言う通りよ、みんなでダアトに向かいましょう。ルークもそれでいい?」

「あ、ああ。」

あたしはこの後のギスギスした雰囲気が嫌いだ。
みんなのことは大好きだけど、正直、この後当分、あたしだって凹むと思う。

ガイがこの雰囲気を何とかしようと取り持ったりしてる中、あたしはみんなよりちょっと遅れて歩いていた。
急がなきゃいけないってわかってても、足取りは重くなる。
ルークが変わる試練の1つかも知れないけど、あたしは胸が痛い。
これはルークに同情してるんじゃない。
自分にこの視線が向けられるのを、ただ怖がっているだけだ。
馬鹿なのはあたしだよ。

・・・!」

「ぅわ!」

声をかけられてびっくりした。

「そ、そんなに驚くなよ、俺までびっくりした・・・。」

気付くとルークが隣に居たのだ。

「ごめん、驚かせて・・・それよりルークは大丈夫?辛いでしょう?
辛抱しなくちゃ、だよね。でも、みんなきっとわかってくれるから・・・。」

「・・・大丈夫か、って聞きたいのは俺だよ。お前さ・・・。」

「・・・大丈夫よ、私は。ガイ、ティア!」

あたしは、ルークの言いたいことがわかってるから、ついでに2人も呼び止めた。

「どうしたの?」

ジェイドは黙っている、おそらくあたしが何を言おうとしているかわかっているからだろう。

「あたしね、レプリカなんだって。」

「・・・何だって!?本当なのか?」

ティアが息を呑み、ガイも一瞬言葉に詰まっていた。

「おそらく間違い無いでしょう、貴方と別れてワイヨン鏡窟に行ったんですが、
あそこでのレプリカ情報に関するデータが残っていました、最も、ディストの個人的なものですが。」

「・・・そう、だったの。」

「でもさ、あたしはオリジナルに会ってないから比べられることもないし、
それほどショックじゃないのよ、だからあたしの心配はしなくていい、ってことで。
報告だけはしとこう、って思ってさ。気を使うのも無しの方向でよろしく。」

それだけ話すと、今はこんな話、悠長にしてられないってことで、あたしたちは先を急いだ。
それでも、ルークは何か言いたげだった。

「ルーク、そんな顔しないで、本当に落ち込んでないわけだし。」

「お前も強いんだな・・・。」

ティア、か。
あたしは俯いた。
強がりでもない、強いのでもない。
今のあたしはただ、気を張り詰めているだけだ。

「俺さ、に謝らなきゃって思って。」

「なんで?」

「アクゼリュスの時の・・・前も後も、あんなに色々声を掛けてくれたのにさ。
俺、みんなにもだけど、酷い態度を取っただろう?・・・ごめん。」

「ありがとう・・・。」

「な、なんでお前がお礼なんて言うんだよ。って?」

「・・・なんでもないの。ただね、あたしはルークに謝ってもらえるような人間なんかじゃないのよ。
・・・それに、あたしが言ったのは、自分にも言っていたことだから気にしないで。」

「だけど・・・。」

「本当に、ともかく、気にしないでってことだから・・・。」

一瞬泣きそうになって、あたしは先を急ぐ振りをしてルークと離れた。
違うよ、謝らなくちゃいけないのはあたし、黙っているあたしなのよ・・・。
でもあたしはまだ喋れない、何故だろう、どうしてもまだ喋ってはいけない気がするのだ。



ダアトの第4譜石のところまで来る。
初ダアトを拝んだわけで、ちょっとはやる気が復活した。
偵察してるアニスと合流しなくちゃ、であたしたちはダアトに急いだ。

教会の近くまで行くと、偵察中のアニスに遭遇。
ルークをアッシュと間違えたりと大変だった。

「まぁ、これで戦力的にも安心できるでしょう?」

「お2人はどこに?」

「イオン様とナタリアはオラクル本部に連れていかれました!」

勝手に進入すれば下手に騒ぎを大きくするだけだ、ということで。
ティアに協力してもらって、トリトハイムさんに許可をもらうことにした。
途中アニスのご両親にお会いした・・・とても、優しそうな方達だ。
あたしはまた、自分の心にずっしりと重たいものものが乗ったような、心が軋むような感覚を覚える。
その後、モースが戦争を起こそうとしている事実をティアも目の当たりにしてショックなようだ。

トリトハイムさんからはすんなりOKをもらって、あたしたちはオラクル本部に乗り込んだ。
ぱっと見人気が無いようだが、ここは油断出来ない。

「それにしても広いわね・・・。」

「しらみつぶしに捜さないと・・・。」

あたしたちは出来る限り静かに、かつ、思いっきりドラを鳴らしながら先に進んだ。
出てくる兵士達には申し訳ないけど、こっちも命がけなのだ。
明らかに見張りと思われる兵士を倒して部屋に入れば、イオンとナタリア。

「?・・・ルーク・・・ですわよね?」

「アッシュじゃなくて悪かったな」

「馬鹿なこと言わない!」

「そうですわ。」

と、ナタリアより先に怒ってしまった。
でも、そんな揉め事は後回しだ。
まだ狙われたままのイオンの身の安全のためにも、あたしたちは足早にそこを離れることにした。

正直、またこのメンバーに戻って安心した。
痛々しいと感じても、やっぱり大好きなみんなだ。
一緒に旅をして、本気で付き合って言葉をかわして、そうして初めてわかることもある。
あたしはそれを経験できただけでも、この世界に来れて良かったと、心底思う。
例えあたしがレプリカでも、今こうしてみんなと旅をしているのは「あたし」なんだから・・・。










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2006/1/9

実は11話執筆から大分空いてしまいました。
正月は課題に追われていたのと、あと2周目をビデオ編集していたのが原因です(アホか)
ネタは大分暖めてあります、正直、ラスト近辺の方が頭の中で安定しているので、
あとはそれにあわせるように書けばいいのですが、書いていくうちにまた広がって収拾がつきません(苦笑)
ヒロインはレプリカだってことより、知ってて黙ってることを(最初から)気にしているので、
そこは大分ひきずります、少々痛いというか、ウザかったら申し訳ないのですが・・・。