対等契約





10










領事館に行くとてんやわんやだった。
ケセドニアで船に乗ろうとなるといつもこうだろうか。
ガイのカースロットがシンクの所為で暴走(?)
とりあえずここから離れるのが先決ってことで駆け足で船へ。

その後、あたしが一体どうして残ったのかって話で。
あたしは素直に、何で自分の名前をアッシュが知ってるのか聞いたこと。
結局答えは聞かなかったってことを言った。
ルークなんかは本当かぁー?と疑ってたから笑い飛ばした。
これであたしが六神将と繋がってるってオチだったらとんだお笑い種だ。

「まぁ、万が一そうなったら遠慮なく刃を向けて頂戴。」

「「!」」

ティアとナタリアに同時にツッコまれる。

「あはは、それよりガイはどう?大分落ち着いた?」

「ああ、ケセドニアを離れて正解だったみたいだな。」

「良かったですね、ガイ。・・・、今のうちに休んでおいたらどうです?」

「ありがと、イオン。そうさせてもらおーっと。」

イオンは本当に、人を気遣うのが得意、というか素なんだなぁと思いながら。
ガイも大丈夫なようなので、あたしは甲板から客室へ戻る。

。」

「ん、あ、大佐。」

「体の調子はどうですか?」

「???・・・それほど疲れてませんよ?」

「・・・そうですか。いえ、それならいいんですが、貴女も女性ですから。
何かあったら誰にでも構いませんから声をかけるようにして下さいね。」

「?はーい。ご心配どうもです。」

なんだか気になる感じはしたのだが素直に受け取ることにした。
カイツールに着けばテオ峠、そのままアクゼリュスと考えると今休んでおくに越したことはない。




ぐっすり眠ると、ここ最近接触のなかったローレライのようだ。

「久しぶり、ね。あたしに何か言いたいことがあって来たの?」

アッシュのことだろうと身構えて、あたしは聞く。

「否。それに、我がお前を呼んでいるのではない、お前が我を呼んでいるのだ。」

「はぁ?だからあたしは呼んでないってば!(むしろ寝かせてくれ)」

そうなると無意識、なのかもしれない。

「ってか、これからアクゼリュスで運命の時が来ようってのに呑気なもんね。」

「何だ?運命の時?しかし、我等の契約は・・・。」

そこで、あたしは目が覚めた。
いつものように、寝たはずなのにこの疲労感。
無意識で呼んでるにしても何とかした方がいい。
前にイオンに言われたみたいに、医者に見てもらうべきなのかなぁ。
まぁローレライのこととなるとどうにもならなそうだけど・・・。
ってそれより、だ。
あたしがアクゼリュスの話題を出したのにあの反応。
やっぱりアクゼリュス崩壊を止める、っていうんじゃないんだ。
一体どういう契約をしてくれちゃったのかしらね、あたしは。
・・・もしかして、契約自体も無意識でやっちゃったのかな?

謎はちっとも解決されない方向だがあたしたちは無事カイツールに到着。
とりあえず徒歩でテオ峠に向かった。

峠、だけあって中々険しいわけで。
大佐の嫌味はおいといて、せめて道がきちんとしていたので助かった。

「今は親善大使の俺が居れば戦争は起こんねーんだぞ!」

と、ルークが荒れ放題なので、またくもって雰囲気が悪い。

「イオン、貴方が悪いんじゃないのよ、気にしないでね。」

「・・・ありがとう、。」

そう声をかけると、後はアニスにまかせて、ルークをバシっと叩く。

「よく考えてものを言うことよ。軽い気持ちで言った言葉でどれだけ相手を傷つけるか。
そのうちにわかるでしょうけどね。」

「んだよ、お前まで俺に説教かよ。」

「説教する程偉くないし、こっちでは世間知らずって十分承知の上で言ってるの。
本当にあなた一人で平和が取り持てると思う?よーく、考えてみること。」

そう、アクゼリュスのことを変えられない、いえ、変えるべきではないのかもしれない。
変えればもっと悪い方向になるのかもしれないのだ。
あたしが声をかけているのはルークの枝先を増やすため。

選択を迫られるとき、人は戸惑い悩み、見失う。
そんなとき、少しでも枝先が多ければ、否、考え方を広くすれば多少は変わってくるはずだ。
あたしにがルークしてあげられることなんてない。
そんな権利もなければ、そんな出来た人間じゃない。
でも、このルークが7歳のルークだって、知ってるあたしは、それを忘れないでいたいだけ。
ただの自己満足だ。



峠のきつい上りで休憩の時もルークの失言。
イオンを気にしていた彼がここまでなるんだ。
ヴァンの影響力は何て大きいんだろう・・・。
否、ヴァンの影響力がそこまでなるように、育てられてしまったのだろうか・・・。

「ルーク、親善大使は肩書きでしょう?ナタリアだって姫だからって我侭言ってる?
確かに今急ぐ必要はみんなわかってるけど、仲間の体調を気遣うのも必要なんだよ?」

「・・・。」

ティアにガツンと、兄さんのお人形ねと言われたルークはやっぱり聞く耳もたずか・・・。
自分の頭で考えろ、態度を改めろ。
その通りだし、出来るべきことだけど・・・そう、今のルークには厳しい言葉だ。

「師匠だけだ・・・俺に優しくしてくれて、俺を認めてくれるのは・・・師匠だけだ。」

「・・・もっと、周りを見れるようにならないと、苦しいよ?ルーク・・・。」

あなたはそうして自分から苦しむ方向に考えを持っていくことになってしまう。
みんながルークを嫌いなのではない。
口に出さなくてもわかって当然だと思っているところもあれば、
ティアのようにガツンと口に出す子もいる。
でも今は、それは食い違いになってしまっているんだ、悲しい現実。


「流石に今のは失言でしたねぇ。」

「アニスも随分怒っていましたから・・・。」

はルークに甘い、ですね。」

「・・・そう、かもしれませんね。」

同情が強く出るのは先を知っているせいだ。
そうでなく、初対面であったら、あたしなんて散々罵っていただろう、彼を。
それだって自分を棚上げしてるだけだ。
あたしが今ルークに言えることは、全部自分にも言っていること・・・。


あたしたちが峠を抜けるまさにそのとき、リグレットが襲い掛かってきた。

「教官、一体何のために?」

「人間の自由と意志を勝ち取るためだ。」

「スコアは人を支配するためのものではありません。
人が正しい道を進むための道具にすぎないんです。」

「確かに。スコアに頼りすぎているならそれから自立していくことは大変だと思う。
けど、人間はそれが出来ないような愚かな生き物じゃないはずよ。」

意見は相容れない。
ティアも今の状態では判断しかねる。
当然だ、情報が少なすぎる。

リグレットは強敵だった。
2丁の譜業銃は伊達じゃない、でも人数的にもこちらが圧倒的有利だった。
流石のリグレット、引き際くらいは心得ているわけで。
でも、最後までティアを誘うところが、母親のような思いもあるのかもしれない・・・。

「やはりお前達か、禁忌の譜術を復活させたのは・・・!」

彼女の出来損ない〜、発言で大佐が確信を持ったのだろう・・・怒った。
あたしですら一瞬驚く。

「ジェイド、知らない方がいいこともあるんです。」

イオンは自分のこともあってかそう言う。
イオン自身が知っていたことについてはジェイドも驚いていたようだけど。
この時のイオンは、そう・・・まだ自分の価値を完全に捉えてたわけじゃないんだよね。

「んだよ!どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」

「ルーク、イオンの言葉聞こえなかったの?知らなきゃ良いことも確かにあるでしょう?
最も、必ずしもそうとは限らないけど、イオンは貴方を思って言葉を選んでくれたのよ?」

「うっせぇよ。・・・俺が出来損ない?・・・俺は親善大使なんだぞ・・・?」

「出来損ないとか、屑とか言われることは極力気にしないことよ。意識すれば余計、傷が深くなる。」

あたしはそれだけ言うと大佐達の後に続いた。
ティアは説明不足を謝ってたけど、結局ルークが取り合わない。
確かに、もうちょっと聞き方があったでしょう、と言われればそれまで・・・だ。


重たい足取りのまま、あたしたちはアクゼリュスに向かった。
知ってて目を瞑る痛みに、あたしは耐えられるだろうか・・・。
否、耐えなければならない、義務があるのだ。
あたしが今「ここ」に存在しているという時点で。



アクゼリュスに到着してからは大変だった。
第14坑道に行こうとしたところでティアが第7譜石が見付かったとかで呼ばれる。
妹を助けて、見せたい現実がコレか・・・。

奥の障気はすさまじい。

「おかしい、先遣隊の姿が見当たりません。」

「先に来てるはずなのにー。」

アニスの文句にも納得だ。
騒がしくなってきた上の様子が気になると言ってジェイドは上へ戻っていった。
ルークは先ほどがからアッシュと接触があるようで頭を押さえている。
今さら間に合わないし、変えられない運命だとわかっていながら、あたしは駆け出した。

「ルーク!」

声をかけたって無駄だってわかっていながら、あたしは階段を駆け下りながら叫んだ。

!?」

イオンもあたしに気づいたみたい。
急いでイオンのところに飛び降りたら、ヴァンに吹っ飛ばされた。

「ッ・・・!」

鈍い痛みが体に伝わる。

「ええい、くそっ、間に合わなかった。」

頭の上からアッシュの声がした。
みんなも下へ降りてくる。

そう、間に合わなかった・・・。
あたしはギュっと目を瞑った。
知ってて間に合わなかった苦しさ、アッシュの苦しさ、ティアの苦しさ。
少しはわかれたのかな・・・。
アッシュやティア、ヴァンが何か言い合ってるけど、クラクラしてよくわからない。

「みんな、私の傍に、急いで!」

、大丈夫ですか?」

「・・・あたしは平気だからイオンを・・・。」

よろよろと立ち上がり、ティアのところに倒れこむ。
ティアのフォースフィールドのおかげで、あたしたちは何とか無事、生きているようだ。
遠のく意識の中、それだけははっきりと理解できた。



「・・・っ・・・ここは・・・ルークは平気・・・?」

気付けばタルタロスの中だった。

はルークが心配なわけ?」

痛い視線だ。

「ちょっと外へ出てくる。」

「・・・。」

誰も何も言わなかった。



甲板ではルークがかなりピリピリしていた。

「・・・ルーク。」

「んだよ、お前も俺を責めるために来たのかよ。」

「半分そうね。」

「・・・なんだよ半分って。」

「ルーク、責任って言葉をよく考えてみて。貴方ならちゃんとわかるはずよ。
貴方だけを責めるのはお門違いだってわかってるのよ、でも・・・。
貴方もまったく悪くないわけじゃない。・・・難しい話よ。あたしにも責任はある。
少し頭を冷やして考えた方がいいわ、みんなも、だけどね・・・。」

あたしはそれだけバッサリ言い切って客室に戻った。

知ってて黙っていた罪はあたしにもあるんだ。
それに、みんなだって。
今のやるせない気持ちをぶつけてしまっているだけ。
ルークも、わけがわからなくて、受け入れる準備が足りていないだけ。
みんな苦しいんだ。
あたしはルークに甘い、って言った。
でもそうじゃない。自分に甘いだけよ。
あたしも、見殺しにした罪を背負わなきゃいけない。
傷の舐め合いがしたいわけじゃない。
誰が悪い?ルークが悪い?悪いのはルークだけじゃないわ・・・。
あの態度に怒る気持ちはわかる・・・でも・・・。

あたしは混乱して考えが落ち着かなかった。











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2005/12/31

なんだか最近1話が微妙に長いですが(苦笑)無事10話でアクゼリュスきました。
越えちゃうかとひやひやしていましたが。
ゲーム2周目で思いますが、ルークの背負わなきゃいけない罪〜ってのは、
正直、そりゃ実行しちゃったのはルークですが、ヴァンにも、知ってて止めなかった側にもあるんではーと。
さすがに、ちょっとアクゼリュス前後はルークの態度は痛いですが、7歳児なわけで
2周目だと、仲間の態度が痛かったです・・・(うぅ)