対等契約
2
「へぇーここがエンゲーブか・・・。」
この感想は本音。
ゲームで見るのと、生で見るのとはやっぱり違うし。
町に入れば、すぐ左手の宿屋では何か騒ぎになっているようだ。
「これじゃ、すぐに休めそうにないね。」
「せっかくだから村を探検しようぜ。」
そう、彼にとって初めての村。
バチカルだって自分の都に見えないのだもの・・・。
「じゃ、ぐるっと回ってまた戻ってきましょうか。」
ティアの提案に頷いて、あたしたちは村をめぐることにした。
村の人に話しを聞いたり。
(やっぱりジェイドたちがここに来てることは間違いないみたい)
パスタの調理法を教えてもらったり。
まぁあの時のルークの態度にウケてたらティアにツッコミ入れられたし。
小さな村だから一周なんてあっと言う間で。
あたしたち3人組(なんとなーく嫌な予感だけど)は例の食材屋を通りかかったわけで。
しまった、せめて買い物のことを話しておくんだった、と思っても後の祭り。
ポーンと放ったリンゴをガブり。
・・・はぁ。
「ちょ、お金払わないとダメでしょう?」
あたしは頭を抑え、ティアは説教。
まったくだめだこりゃ、と思いながらローズさんの家の前に戻ってきた。
2人で買い物の仕方についてみっちり教育しなおし。
で、やっと宿屋で一休み・・・のはずがこれだ。
「お前ウチだけじゃなくまた盗んだのか!」
「あぁ?俺は盗んでねーだろ!」
ティアの目配せに、素直に頷いて。
あたしたちは一緒にローズさんのところへ連れていかれた・・・。
「俺じゃねーって言ってるだろ!?食い物になんて困ってねーよ!」
「あんたその失礼なものの言い方は直した方がいいわよ。」
ローズさんに叱られる前にあたしがガツンと言ってやる。
「うっせーな!何でお前に説教されなきゃなんねーんだよ!」
お坊ちゃんの言い返しに耳栓してたらさらにキレられた。
「まぁまぁ、ちょっと落ち着きなよ。」
ローズさんが間に入ってくれたおかげでルークがおとなしくなる。
案の定、あたしの心配は的中で・・・。
3人組というだけで漆黒の翼と疑われた・・・。
「流石に、漆黒の翼に女性が2人とは聞いたことがありませんね。」
ティアが抗議する前に、この発言。
さっきまで意図的に向かないようにしていた方向を、驚いて見上げる。
肌、白!目、赤!
ドギマギしながら大佐を見ていると、ルークがわめきだす。
「大体アンタ誰だよ!」
「これは失礼。私はマルクト帝国軍第三師団所属、ジェイド・カーティス大佐です。」
なんだか知らんがこの世界だと自分に大佐とかつけるの普通なのかな。
まぁ大佐でもなんでもいいけどさ。
アホなルークが自分のフルネームを言いそうになり、ティアにまた説教を食らっていた。
「彼はルーク、こちらが、私がティアです。」
ここに至るまでにタルタロスを見かけたことを報告するティア。
そこに期待の乱入者!
「彼は犯人ではないと思いますよ。」
イオン様の登場で、その場は収まった。
あたしたちはローズさんの家を出て宿屋に向かうことに。
ルークがイオン様のことを色々と言っているのを横目に見ながら、あたしは俯いていた。
あたしにとって、イオン様の死はほんの数日前だったからだ。
「どうしたの?」
「あ、ううん何でもない。ちょっと考え事って、なんかまたティアに心配かけちゃった、ごめんね。」
「え、いいのよそんなこと、が大丈夫ならいいの、気にしないで。」
「・・・ありがとう・・・。」
にっこり笑うティア。彼女の笑顔だって、奪われてしまうのだ。
本当にあたしは何のために・・・何のためにここに来たのだろう。
最初に望んだのはあたしなんだろうか?
宿屋に戻って、アニスとちょっとした会話があった。
なんだかフラフラで(多分睡眠妨害のせいだけど)よく覚えていない。
まぁ彼女も急いでいたみたいだし、大した会話にすらならなかったが。
どうやら疲れていたらしいあたしは、一番に寝入ってしまったようだ。
あたしはまた夢を見ていた。
あの時と同じ、真っ暗なところでただ声だけが頭に響く。
この調子じゃ寝不足だってちっとも解消しないじゃないの、と腹を立てるあたし。
「ちょっと誰だか知らないけどいるんでしょ?あたし、まだよくわかってなくてここに来たのよ。」
なんとか言えー!と叫ぶと、かすかだが声が聞こえてきた。
「契約違反はしていないようだな。」
その弱弱しい声にあたしは飛び跳ねそうになった。
これ、ローレライの声!?
「あ、あんたローレライなの!?」
「そうだ。」
「じゃ、あたしがこっちに来たのも何か関係があるの?」
「ああ。」
「じゃあ何でセーラー服なんだっつーの!(怒)」
そこは気にするなといわれたが一番気にするところだっつーの。
戦える状態にしておいてくれたことには素直に感謝しておいたが。
「・・・あまり時間が・・・いのだ。」
「待ってよ、あたしまだあんたに聞きたいことが・・・!」
「私が・・・び。お前が応え・・・だ。だから、契約・・・成り立・・・のだ。
しか・・・、忘れるな・・・契・・・違反・・・は・・・。」
ちょっとちょっとどうなっちゃってるんだろう。
重要な契約違反ってとこもはっきりしてないし。
イマイチわかんないけど、やっぱローレライが閉じ込められてるせいなのかも。
やっぱり、この世界を大きくゆがめる変化は・・・マズい、よね。
あたしは自分の行動にもっと慎重にならなきゃ。
あたしの一挙一動で、どこまで影響しちゃうかわからないけど。
今度会うときはそこのとこを詳しく聞いておかなきゃ・・・。
不安定な睡眠に頭痛をおぼえながら寝ぼけた状態で目が覚めた。
一瞬、なんでこんなとこにいるんだろうと、びっくりしてしまう自分、まだ慣れない・・・。
ティアが起きて、ルークも起きて、結局昨日の泥棒探しを引きずってチーグルの森に行くことになった。
ってことはイオンと行動を共にするわけだ・・・それにあそこにはライガクイーンが・・・。
テンション下がり気味のあたしをよそに、妙に元気満々のルーク、いつも通りのティア。
そんなこんなで準備を済ませ、あたしたちはチーグルの森へと向かうことになった。
チーグルの森には難なく着いた。
ルークがイオンに気づく。
目の前で初めて見るダアト式譜術・・・イオン様の体、これじゃあ・・・。
テンションダダ下がりのあたしだが、イオン様の可愛さにはきゅん死(造語)
「古代イスパニア語で、聖なる焔の光、ですか、素敵な名前ですね。」
悶絶と葛藤でいっぱいのあたしの横ではさっさと自己紹介が始まっていた。
「そういえば、貴女も昨日エンゲーブにいらっしゃいましたね。」
「あ、はい。と申します。イオン様。」
「・・・失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」
イオン様の発言に???なあたし。
ティアも首をかしげて、あたしのいきさつをイオン様に説明してくれた。
「なるほど、それではお会いしているはずはありませんね。」
「ええ・・・。まぁ、信じて頂けるようなことじゃないのですが・・・。」
「僕は信じますよ。貴女が僕に嘘をつく必要も無いでしょうし。その服を見ればわかります。」
ルークもティアもあたしの制服に目をやる。
「イオン様・・・そ、そんなに目立ちますか・・・やっぱり。」
「まぁこちらには無いタイプのものでしょうから。あ、僕のことはイオンでいいですよ。
貴女はこちらの方ではないのですから。」
「じゃあお友達として、よろしくね、イオン。」
「・・・!はい、よろしく!」
差し出された手をギュっと握る。
ニコっとした笑顔にノックアウトされながら(鼻血はかろうじて出てません)
子ども。たった2年。
ルークも少しはイオン様を見習えばなぁ、と密かにため息一つ。
とりあえずイオンを守り守り(といってもあたしもまだまだ守れるほどじゃないけれど)先へ進む。
チーグルを見つけ、あたしたちは急いで後を追った。
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2005/12/28
ヒロインはイオンにきゅん死(造語)なんですが、イオンの死を見てあまりたってないので素直に喜べず。
タルタロスあたりからヒロインがアホな子に戻る(?)ので、大佐変態エロメガネ疑惑(爆)