対等契約

















「あーっと、あたしは、・・・貴女は?」

そりゃ、知ってますとは言えないのでとりあえず名前を聞く。

「私はティアよ。それにしても貴女、空から降ってきたように思えたのだけど・・・?」

「うん、そうみたい。」

「そうみたい?」

「まぁ詳しいことは追々話すとして、そこの寝てる少年を起こしましょ。」

「え、ええ。そうね。ルーク、起きて!」

ティアはあたしの話に納得はいかないだろうけど、こんなモンスターの出るところで悠長に話してられない。



正直、ここまで淡々としていられる自分はおかしいと思う。
けれど、あの声が本当なら、あたしはここに望んできたのだろうから、それくらいの心構えでいよう。
ただ、それだけ。
本音は、凄く不安だし、凄く怖い・・・。



「・・・キミは・・・いっっつ。」

「急に起き上がるからよ、もうちょい落ち着かないと。」

「わ!お、お前は誰だよ!」

キミの次はお前ときたか・・・まぁ彼らしくていいけど。

「・・・諸事情で一緒に飛んできたの、名前はよ、お前じゃなくて、ね。」

あたしのツッコミに少々呆れながらティアが割って入ってくれる。

、こっちはルーク。とりあえず今は自己紹介してる時ではなさそうね。」

ティアは本当に、冷静に対処する。
淡々とセブンスフォニムについて話して、ルークが意味わかんねーと叫んでいる。

「・・・。」

あたし、本当に、この世界に来ちゃったんだ・・・。

?大丈夫?」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事。で、とりあえずは?」

「ルークをお屋敷まで送らなきゃいけないのよ。貴女はどうする?」

詳しいことをずけずけ聞かないティアに安心して、あたしは答えた。

「ちょっと当てが無いから二人につき合わせてもらうことにする。いいかな?」

「もちろんよ。ルークも、いいわね?」

「へーへー、勝手にしろ。」





「まぁ、多分一番謎だと思うから追々あたしの話からするわね。」

実戦経験のあるティアがいるだけあって、ここのモンスターはたいしたことない。
ルークも剣の修行だけが趣味、というだけあってすぐ慣れた。
あたしはといえば、まさか獣なんか相手にしたことないわけでさすがに動揺したけど、
合気道部だったのが幸か不幸か、それなりには戦うことが出来た。

しかし、なんで制服(セーラー服)なんだっつーの。
まぁいつものようにスッパッツまで履いてて助かるわ助かるけど正直キモい。(誰だよ履かせたの)
そのくせご丁寧にナックル系の装備はされている。
どう考えても制服は不自然だ。

「信じる信じないは別として、あたしはこの世界の人間じゃないわ。」

「はぁ?」

お前頭おかしーんじゃねぇの?という顔だ。
まさかルークにこんな顔を向けられる日が来ようとは・・・。

「・・・服装も見かけたことはないし、空から降ってきたし、実戦経験はなさそうだったから不思議に思ってたわ。
でも、まさか・・・本当に別の世界から・・・?」

流石のティアでさえ、少々訝しげだ。

「だから、信じる信じないはまかせるわ。その代わり、ティアの言う通り、あたしも実戦経験ないの。
足手まといになるから、ここに置いてくってのもありよ。」

「俺はやっぱこんな意味不明な女と一緒に行動するなんて御免だぜ。」

「ルーク!もう、あなただって実戦経験ないでしょう?、気にすることないわ。
どうせ、ここを抜けて町まで行くには人数は多い方がいいでしょう?いいわね、ルーク。」

「・・・わーったよ。」

「じゃ、しばらくの間よろしくね。」





そう、これがほんのしばらくなら、話は簡単なのだ。
そんなわけないと、あたしは知っているけど。





タタル渓谷を抜けると、例の御者がお待ちかね。
3人組みだったから一瞬漆黒の翼と疑われ(・・・。)
まぁ堂考えても丸腰同然のあたしとルークを見て御者も納得。 
ティアが話をつけて、馬車に乗せてもらえることになった。
本当ならここで、橋をわたらないで徒歩で行くべきだと。
ここはマルクトなのだと言ってしまえば全ては変わるかもしれない。
でも、何故かそれだけはしてはならないと思った。





そう





契約違反





頭にそんな言葉が浮かんだのだ。

「ティア、あのペンダント・・・ごめんね。」

「ど、どうしてが謝るの?」

「大切な物だったんじゃないかと思って・・・。」

「・・・いいのよ、このまま土地勘の無い場所でうろつくのも厳しいし。」

申し訳ない気持ちでティアと話していると。
お馬鹿なルークはさっさと乗るぞーと怒鳴っている。

私たちは馬車に乗って(ちなみにルーク・あたし・ティアの順で)
流石のあたしも、うとうとしていたところだった。
遠くの方が騒がしいのに気づき顔を上げる。
ティアも起きていた。
ルークはあたしの右で熟睡中。

「騒がしいわね。」
「ええ、何か来るわ。」



警戒した直後、タルタロスからの砲撃が馬車を揺らした。



「うわっ!な、何だよ一体。」

それからは世間知らずお坊ちゃんが両方の窓から顔を出すわで2人で抑えるのに一苦労。
ここがマルクトだとわかって、ルークも観光がてら歩くというので(ちょっとびっくり)
あたしたちは歩いてエンゲーブに向かうことにした。



「腹減ったー。」

ルークのその声に2人、脱力する。

「じゃ何か食べましょ。」

「お前が作るのかよ?」

「ああ、あたしも手伝うわ。」

ティアが持っていたライスを2人でおにぎりにする。
まぁお腹に入ればいいわけだが、はたしてお坊ちゃまが納得するやら・・・。
案の定なんだよこれ、というルークを2人でガツンと諭して、食事終了。

「お前らよく噛んで食わないと腹壊すぞ。」

と、ツッコミを入れられた。

「ぶっ・・・ルークって変なところでマトモなこと言うのね。」

あははっと大爆笑のあたしに、ルークはプイとそっぽを向いてほっとけ、と呟いた。



道中何故か話題はあたしの制服に。

「しかし、お前の服変わってんなぁ。」

「失礼な!制服なんだけどねー、これでも。」

「制服?は何処かに所属していたの?」

「そんな大げさなもんじゃないんだよ。これ、あたしの行ってた学校の制服なの。」

「そう・・・それにしても、どうしてこの世界に来たのかわからないのとなると・・・困ったわね。」

ティアの答えに、半分頷く。
契約ってなんだろう。
まだまだわからないことばっかり。



「お、あれがその村じゃねぇの?」

「ええ、そうみたいね。」

ルークが指差す方には穏やかな農村が見える。
そう、もしこの世界があたしの知っているアビスの世界なら・・・。
あそこでメガネ、じゃなかったジェイド、それからイオン様にアニスちゃんに会えるわけだ。
何故だろう。
もしこんな状況なら楽しみで楽しみで仕方がないだろうと想像したこともあったのに。
無心に喜べない自分がいる。



複雑な気持ちを抱きながら、あたしはエンゲーブに足を踏み入れた。










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2005/12/27

大佐と出会うあたりからヒロインがアホキャラになる予定なんです。
戦闘シーンは大体省いてしまうかと・・・!ルークは等分名前を呼んでくれなそうなので代わりにティアが(笑)