対等契約
















「たーだいまー。」

なんて言ったって誰も居ないのは重々承知だ。
荷物を玄関に放り出してお風呂を沸かす。
適当に料理の下準備をして、沸いたら入る。
出たら作って食べる、いつもと同じ。

「今日は本当に疲れたなぁ。」

ドライヤーで髪を乾かしながら、カレンダーを眺めてため息ひとつ。
でも今日でおしまい。
今年最後の合気道部の練習も怪我なく終わったことをどこぞの神に祈りつつ。

「さぁて、今日でクリアだ!」

この猛烈に忙しい年末の合間を縫ってプレイしていました。
テイルズ オブ ジ アビス! 

ストーリーを知りたくて大分急いだ。
涙腺の弱いあたしにとって今回は大分泣かせるゲーム。
イオン様(様付けかよ・・・)なんかボロボロだった。

「でも、また泣く予感なんだよなー。」

コントローラーを握り締めてプレイに集中する。
時計は10時を過ぎている。
どのみち明日から冬休みだし、もともと文句を言う人間なんてこの家にはいない。





案の定ED直前のアッシュの死に涙ボロボロ。
馬鹿だと思われるかもしれないけど本気で泣いた。





「あーあ、終わっちゃったなぁ。切ないなぁ。」

時計を見れば3時。
アビスのせいでもともと寝不足だったのが悪かった。
泣いたのも原因だろう、軽い頭痛に頭をおさえたままベッドに倒れこんだ。
毛布にもぐりこんで、目をつぶれば悲しいシーンばっかり思い出して。
そのまま、あたしは深い眠りに落ちた・・・。











「・・・ざ・・・めよ・・・」

「んぅ・・・?」

寝ぼけた夢の中で誰かに揺り起こされる。
夢だし、いいかと思いまた寝ようとすると。

「目覚めよと言っているであろう!」

普通に怒鳴られた。

「だぁぁ!あたし今睡眠不足なの!寝かせてってば!!」

ガバっと起き上がってもそこは真っ暗で何もない。
どうも自分の部屋でもない。
まぁ夢だから仕方ないか。
しかし、声は聞こえど姿は見えぬ相手。
なんでったってこんな夢見なきゃいけないんだろう。
昨日は泣きに泣いて疲れてるんだってのに。

「そうはいかぬ、お前は我と契約を交わしたのだからな。」

「・・・契約ぅ?だ、誰が誰と!?」

「・・・まぁよい、お前の願い通り、お前を・・・に飛ばそう・・・を頼む・・・。」

「ちょ、よくないわよ。一体なにが・・・!」

ザーっという荒れる音が邪魔して聞き取れない。
そのまま、あたしは嵐のようなものに吹っ飛ばされた。



な、何が一体どうなってるっていうんだか!?
わけもわからぬまま、あたりが急に明るくなった。
何か開けた場所に出たらしい・・・


出たらしい・・・っつーか落ちてるんですけど・・・!!!!


「えええええええ!?!?」


色気のない叫び声とともに私はまっさかさまに落ちていった。


「な、何だ!?」

聞き覚えのある青年の声を聞いた気がする。
と、そのまま、またも衝撃とともに吹っ飛ばされる。
カッと光った瞬間に。


見た。
見てしまった。
まさか・・・。



これは夢だと首を振って済むなら。
ううん、これは夢なんかじゃない。



あたし、アビスの世界に来ちゃってるんだ。
ギュっと目をつぶって思い出す。
驚いて声を上げていたのはガイ。
一緒に居たのはヴァン。
あたしが昨日放心状態で倒した(アッシュのせいで泣いてて)
あのヴァン師匠。



そんな考えが渦巻く中、衝撃が落ち着くのを感じたあたしはとっさに受身をとった。
足に力をこめてザーっと着地。
ルークじゃないけど、まさかこんなことが実践的に役に立つなんて。
あたしは立ち上がって顔を上げる。
一緒に飛ばされた少女の方も、受身はバッチリのようである。





「貴女一体・・・?」

「あたしは・・・。」






こうしてあたしの途方もない旅が始まることになった。
まったくもって予想も付かない、しかし必ず終わりの来るこの旅が。
あたしが多くを知る、否、多くを知りすぎてしまったこの世界で・・・。
今まさに、あたしの物語も幕を開けたのだ。










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2005/12/27

超ギャグの予定がこんなことに!一体どうなってるんでしょうね!
うちの逞しいヒロインは戦って戦ってみんなとイチャつくといいよ(謎)