図書室で本の整理をしていると、思いっきり扉が開く音がした。

なんとなくイヤな予感がしたので、振り向きもせず作業を続けた。





















恋愛遊戯




















「なあ、。」



本棚を整理するために、脚立の高いところにのっていて。

下のほうで呼ばれる声に、ふと見下ろした。











ああ、見知った顔。

うちの学校で有名なテニス部のレギュラー。









丸井ブン太。

どちらかといえば苦手なタイプだ。











そんなことを考えながら返事をしないでいるわけにもいかず。

「何、丸井くん。」

まったくクラスも一緒になったことのない彼の苗字を口にした。

「あー、俺のこと知ってた?」

「人並みに、ね。それより何で私のこと知ってるの?」



そっちの方が十分疑問だ。

彼と私では知名度のレベルが違う。



「そこのカウンターに名前あったから。」

「ああ。」

気の抜けたような声を出した。

一番上の棚の整頓が終わって、私は二段目に移った。










一瞬、話をするなら手を止めるべきかとも思ったけど、

彼の方も無言で私の作業を見ているので、放っておくことにした。


























「・・・。」

「・・・。」



























「・・・丸井くん、私に何か用事だったんじゃないの?」

流石に沈黙が重くなって、手は止めないものの、私は口を開いた。










「あー・・・ってさ。」








「んー?」















「いろんなヤツとヤってるってマジ?」
























「はぁ!?」

あまりにびっくりして、整理中の本を落としそうになった(ちゃんとキャッチしたけど)

んで、その本を戻して、作業の途中で脚立を降りて丸井くんに向き合った。

「・・・それって、噂かなんか?」

自分で口にしていながら、噂だったらそれもそれで困る。

「いや、俺的発想。」

「(喜べない)・・・。」

それもどうなんだ、と思いつつ。

私は呆れてしまった。











「で、どうよ?」

「どうよ、って聞かれても。どう答えるわけ、私は。」

ムっとして、そう尋ねる。

や、威張っても処女だっての。

「あー、じゃあヤったことあるかないかだけ。」

「無いわよ。」











「マジ?」

「や、そんなの嘘ついてどうするの。」

「(確かに)じゃあって処女?」

「(悪いか)そうだよ。」

しかし、何故この男にここまで白状しなきゃならないのか。

つーか処女じゃ悪いのか、私は。















「いや、前にさ、いかにも清楚な感じの子がヤりまくってたらスゴイよな、って話してんの聞いてさ。
クラスのヤツだったんだけど。で、真っ先にだなーって。」

やっぱ噂じゃないかよ(怒)

というか名前出なかったからいいものの、十分な被害だ。

「・・・は?ちょっと待って。えーっと。」

「?」

「その話聞いたのっていつ?」

「結構前、1、2ヶ月くらい。」

「私の名前知ったのってさっきでしょ、だったらどうしてそこで私の名前が・・・?」

一番の疑問がそれだった。

「は?ああ、確かにカウンターで名前見たって言ったけど。
おれのこと知ったのずいぶん前だぜ?」

「そうなの?」

意外だ、私はココくらいにしか縁の無い女だから、大して付き合いが無い。






「柳生がさ、よく来てるだろ?」

「そうだね、よく合う。」



部活をやっていない私は、カウンターの当番をかわってあげることも多くて。

普通の図書委員以上に図書室にいる。

だから、頻繁に図書室に顔を出す人とは親しくなったりする。

柳生くんもその一人だ。



「で、ずーっと前に柳生にくっついて図書室に来たとき、俺外で待ってたんだ。」

「うん。」

「柳生が本借りるの外から見てて、と話してるの見てて、あー・・・。」

「?」





丸井くんが言葉を詰まらせたので。

大して変わらない身長なのに、下から顔色を窺った。

丸井くんの顔が赤いような気がして、私はびっくりした。










「あー、もう!俺はが好きなんだよ、一目惚れなの!」

「えぇ!?」

怒ってる上に急に告白されて、私は驚いた。

というか最初の会話からは想像もつかない発言だ。

「何だよ、その信じられない、って顔。」

「それ最初の会話を思い出してから言ってちょうだいよ・・・。で、結局、私の答えはお気に召したの?」

「あ?」

「処女でお気に召しましたかって聞いてるの。」

私はツン、とそっぽを向いて答えた。

つーか乙女としてもう少し恥じらいを持った方がいいんだろうが(家族構成兄3人弟1人)

この状態でどこまで女らしくしてられるものか。











「もうそんなの関係無しにお前最高、って面白いのな。」

「・・・あー、どうもありがとう。」

褒められてるんだかどうだか微妙なところだが、私は一応お礼を言った。

さっきから彼の「清楚な」像が崩れているらしい。

しかし、そんなにウケなくても・・・。

















くだらない話をしているうちに、図書室を閉める時間になってしまった。

さっきからまた私を観察している丸井くんをよそに、テキパキと用事を片付ける。

「はいはい、閉めるから出た出た。」

文句を言ってくる丸井くんの背中を押して追い出し、私は鍵を閉めた。

その鍵を教員室に持っていくのにまでついてくる様子の丸井くんに、

「あとは鍵を返すだけだよ?てか、君は部活はいいわけ?」

「サボった。」

「は!?」

あの真田くんが何をしでかすかわからないだろうに、と私は悶々とした。

「でも大丈夫、俺の代わりにあやまってくれるさ。」

「え、私はやだからね。」

「違う違う、ジャッカルが。」

「げ、何それ。」

こんな扱いになっているジャッカルくんを可哀相になりながら。


















「部活サボったならなおさら、早く帰ったほうがいいよ。」

「ヤダ。」

「(ヤダじゃないだろう)や、帰ったほうがいいて。」

「ヤ・ダ。」

「あのね・・・。(困)」





こんなやり取りを廊下で繰り返す。

小学生じゃあるまいし、そろそろあきらめて教員室に向かおうとした。























「だって俺返事もらってないだろ。」

歩きかけた手をギュっと握られて、真顔でそんなこと言われて。

(つーか顔が近い)

ドキドキしない女がいるならお目にかかりたい。

「返事。」

「そ、俺告白しただろー?」

「そうだね。」

「(そうだねって・・・。)」

「いいよ、付き合っても。」

「マジで?」































「その代わり、一ヶ月以内で飽きたりしたらお別れ。」

「何だよそれ。」

「せいぜい本気にさせてちょーだい、王子様。」

「絶対好きって言わせてやるからな。」




























放課後夕日の差す廊下で。

背中に受けた言葉に目を瞑った。




















本当は、もう好きかも知れないよ。























○ごめん、ブンちゃん可愛いですよね、こんなキャラじゃないですよね(ヘコミ)
ブンちゃんで書くならもっと可愛いので書けばよかった(・・・)
なんか妙に変な路線で申し訳ない。でも彼は割かし書きやすかったけれど掴みにくい感じでした。



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