対等契約 単発夢
ダアトで迷子 シンク編
「む・・・一体どーなってるのかしら?」
あたしは首をかしげた。
記憶が正しければ、先ほど自分は階段を上がって来たはずだ。
しかし、行けども戻れども、上りの階段しか見当たらない。
脇道、脇部屋。
いろんなところに顔を出したのがマズかったのか。
「大した情報も無いくせに!なんて腹の立つ場所なの?」
ドスドスと足音を大きくたてて。
あたしは階段を上って行った、もうこうなりゃヤケだ。
「・・・こ、ここも行き止まり・・・。」
せっかく階段を上る、という労力を費やしたというのにコレだ。
「うぅ・・・あたしの時間を返して・・・って、わぁ!」
よろよろと背後を確認せずにバックしたあたしが悪いわけで、
階段を落下していくわけで。
ガンっという、頭を打つ音を予想してギュっと目を瞑っていた。
が。
確かに、音はした、ドサっと。
でも、目を開けても空間はいつもの通りで。
あたしは天井が上にあることを不思議に思った。
ふと、下を向く、腰に手。
「ぇぇえ!?」
「ちょっと、耳元で大声ださないでくれないかな。」
とりあえずガバっと離れて。
というか離されて。
「・・・す、すいません・・・って・・・ど、どうしてキミがここに、じゃなくて。
えーと、えーと、・・・ありがとうございました。(錯乱中)」
「フン、あれだけ煩く騒げば見付かるとか思わないわけ?」
「いえ、まぁ、ごもっともなんですけどね。」
「大方偵察にでも来たんでしょ?」
そのまさに図星!な発言にあたしはアタタと肩を落とす。
正直、偵察に来て敵にバレるとは何たることか。
「・・・えー。黙秘権を使います。」
「却下。」
「うぅ・・・酷いよ、仮面少年のくせに。」
「煩い女だな・・・それに僕は仮面少年じゃない、シンクだ。」
「知ってるよ。」
「・・・。」
シンクは、というと黙ってしまう。
怒らせただろうか?
まぁ、多感な年頃に入りかけた少年だ。
否。彼もまた、2年足らずの生なのだろうか。
「偵察に来たのは認めるとしてね、あたしどうやら迷子なのよね。」
「・・・は?」
「いや、だから女子高生が恥を忍んで迷子を告白してるんだってば、シンク。」
「・・・女子高生?・・・ともかくここに居ればモースに見付かるよ。」
「でぇぇ!?そ、それを早く言って!」
「騒がなくても今すぐ来るわけじゃない。」
「何だ、脅かさないでよ。」
あたしは唸る。
ここでモースなんかに見付かったらどこに突き出されるかわからない。
それだけは困る。
「ともかく、こんな目立つとこに居られちゃ困るんだよ。さっさと来い。」
「え・・・あたしをモースとかに突き出したりしないの?」
「突き出して欲しいわけ?」
「ご冗談を・・・。」
「じゃあ黙って付いて来い。」
返事も待たずにスタスタ行ってしまう。
あたしはもう命令口調には慣れっこだ。
アッシュも似たようなもんなのよね。
男の子って、やっぱこう、意地を張りたくなるのかしら。
ま、いいか。
「あ!ねぇシンク!」
「何。」
「あ、あからさまに冷たいなぁ。手繋いでもいいですか!」
「却下。」
その言葉を無視してはギュっとシンクの手を握った。
少々冷たい、その手。
「・・・僕は却下って言ったんだけど。」
「まぁ、死ぬほど嫌だったら振り払ってくれていいよ。
その際あたしが猛烈に凹んでこの場の雰囲気をどん底にしてあげるけど。」
シンクは「はぁ」、とため息をついたが、あたしの手を引っ張ってどんどん進んでいく。
なんだかあたしの見たことのあるような無いような場所を散々歩き回って。
何で人に会わないか心底不思議だが、まぁそれはこの際どうでもいいか。
ついには出口に辿り着いたわけで。
出口というか、あたしが入ったはずの入り口というか。
「わ、出口だ!」
「そりゃ出口に向かって来たんだから当たり前。」
「・・・そうですね・・・。」
フン、っていうシンクの態度にあたしは苦笑した。
「我侭聞いてくれてありがと。」
「・・・。」
「そういうときは、どういたしまして、って言うといいよ。」
「・・・なんで僕があんたに命令されるんだ。」
「命令じゃないよ、提案!」
「・・・どういたしまして。」
「ふふふ。」
あたしは不思議と泣きたい気持ちになった。
イオンに対して感じるのとは、また違った。
痛い悲しさ。
「ねぇシンク。今度デートしようよ。」
「あんた馬鹿じゃない?」
「ああ、敵同士とか、そういうの無しね、あたしは認めない。
あたしとシンクは、敵とかオラクルとか、全部肩書き捨てちゃえばだたの女と男でしょう?
だから、そうだな、友達として、会いたいってこと。」
「・・・。」
「別に、会ってくれなくても、あたしは何度でもここに乗り込むし。」
「何故?」
「真実を知るためよ。」
「真実?」
「別に、深い意味は無いんだけどね、自分の目で全部見れないってわかってても。
あたしは、出来る限り見たいって思ってるの。だからここにも何度だって来るよ。
もちろん、シンクのことだって知りたいし。」
「・・・僕には、あんたが知りたいと思ってるようなことはないよ。」
「・・・。」
この子は、自分の存在をどうしてこうも、痛く受け止めているのだろうか。
ううん、受け止め方は人それぞれ・・・それでも。
「いっぱいあるよ。性格は?好きな食べ物は?癖は?趣味は?
好きな色は?好きな言葉は?好きな人は?答えだっていっぱいあるよ。」
「僕は・・・。」
「!!」
コツコツと、反対側から足音が聞こえた。
ここで見付かっては、あたしはいいとしてシンクの立場が無くなってしまう。
あたしは背伸びをして(口惜しいけど)
シンクの頬に唇で触れた。
「っ!」
「またね、シンク。」
あたしは地面を蹴る。
急いでこの通路を抜ければ、姿は確認されずに済む。
「・・・!」
声に振り返る。
知ってるよ、何か呼び止めたい理由があるわけじゃない。
名前を、呼んでくれたんだよね。
ありがとう。
あたしは笑顔を返して手を振った。
「・・・僕にだって知りたいことくらい・・・あるさ。」
シンクは小さくなるの背中を見送った。
次に会うときに、もっと彼女の名前を呼ぶことが出来るように、そう願いながら。
頬に伝わった温かさを、忘れないように。
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2005/1/2
これは別にフライングキスネタではなくあくまで迷子ネタで・・・!(無理がある)
ヒロインはシンクにはわりと積極的だと思います。
イオンより子ども?に感じるのかもしれないですけど。
何度も言いますがヒロイン18前後です・・・(まだ確定させてないけど)
これ、続きが出来そうな雰囲気で終わらせてしまいましたね(爆)