094. 大譜歌
「おーいティア、いつものやつ頼むよ。」
そう言ってティアにを預ける、もう習慣だ。
が日記を書き終わったら、ティアの大譜歌を子守代わりにして寝かしつけてもらう。
「おやすみなさい、るーくおにいちゃん。」
可愛いナイトキャップに、ネコの模様の入ったパジャマの袖口をバサバサさせて、
がぶんぶん手を振る。
「ああ、おやすみ。」
そう言ってティアと別れた。
で、次の日もいつも通り出発するはずだったのだ。
「ちょっとルーク!!大変だってば起きてー!!」
アニスがドスっと圧し掛かってきたので、俺は「ぐっ・・・」と腹を押さえて起き上がった。
「何だよアニス、朝から・・・。」
「がいなくなっちゃったの!!」
「な、なんだって!?誘拐なのか!?」
俺はガバっと立ち上がる、他の皆は、と聞けば、聞き込みをしているらしい。
まったく、ダアトに来るとロクなことにならない気がする。
「目撃情報がありましたわ。」
ナタリアがガイと駆け込んでくる。
外を掃除していたらしいメイドも一緒だ。
「で、・・・あ、その女の子はどこに行ったんですか?」
「教会の方でしたよ。」
「誰かと一緒だったんですの?」
ティアとナタリアがメイドに詰め寄っている。
「え、ええ。何だか、椅子に乗った人と・・・。」
「・・・。」
「椅子・・・。」
「・・・椅子・・・。」
一同、黙ったかと思えば、口々に椅子と呟く。
「ディストかよ!!」
「まったく、こりない男ですね・・・。」
そんな話をしていると、呼んでもいないのにアッシュから連絡が入った。
「・・・痛ってぇ・・・アッシュか?」
「他に誰がいるんだこの屑!を誘拐したバカをさっさと捕まえるぞ。」
それだけ言うとまた一方的に切られる。
「アッシュもディストを探してくれるってさ。」
「でも、探すって言っても一体何処に行っちゃったんだろ・・・。」
アニスがうーん、と唸る。
「とりあえず導師イオンに聞いてみましょう。」
そうティアが提案するので、俺たちはイオンのところに急いだ。
■■■その頃の■■■
「ねーぱぱ、どこいくの?」
はというと、ディストの膝に乗せられたままオラクル本部へ向かわされていた。
「すぐ着きますから、暴れないで下さいね。」
「うー。」
と、ディストが注意をしたのものの、まったく聞いていない。
「あ!いおんさまー?」
バッと椅子から飛び出して、下にダイブする。
「ひっ。。。シンク、何とかしなさい!!!」
「は?」
下方にいたのはシンクだったのだが、遠目だったのでにはわからなかったのだろう。
シンクの方は煩いと思って上見上げたらひらひらお洋服の女の子が落ちてくるんだからたまったもんじゃない。
「なっ・・・。」
ドス。
受け止めたシンクの顔をじーっと見つめて一言。
「あ、いおんさまじゃなーい。だれ?」
「・・・シンク。」
一瞬で、しかも顔を見ただけで。
自分とイオンが違うと判断したこの少女(ていうか幼女)に驚く。
何となく、髪型ではない、別の何かを見透かされるような、そんな目。
「いやぁ、よくやりましたシンク、少しは見直しま・・・ってちょっと。
私のを連れてどこに行くんです!?」
「じゃーねーぱぱ?」
シンクは受け止めたを抱っこしたままスタスタ去っていく。
追いかけようとすると。
「あ、ここにいらっしゃったんですねディスト様。総長がお呼びですよ。」
と、あれよあれよとライナーに引っ張られていってしまった。
■■■その頃のアッシュ■■■
「ディスト、お前を何処にやったんだ。」
うかっかり通りかかったディストに掴みかかり、アッシュが問い詰める。
「そ、それこそ私が聞きたいですよ、まったく・・・。シンクのやつが(ぶつぶつ)」
「は?シンクだと?」
また余計な人間が一人増えたことに頭を抱えていると・・・。
「おーい、アッシュ!」
中からルーク達が出てきた。
「今イオンにも聞いてきたんだけどさ。来てないって言うんだよな。あ、ディスト!」
話は振り出しに戻り、シンクがを連れて行った、ということがわかると。
「シンクがぁ・・・?一体何で???」
アニスも全くわからん、という感じだ。
「でも、きっとこの近くに居るんじゃないかしら?」
「まぁ、ディストもついさっきって言ってることだし、この辺探して見るしかないだろ。」
ティアの意見に、ガイも同意する。
「まったく、そもそも貴方がを誘拐しなければこんなことにはならなかったんですのよ。」
という、ナタリアのジト目にディストはそそくさと逃げ出した。
「ディストのことは放っておいてを探しましょう。何か危ない目に合うということは無いでしょうけど。」
ジェイドの提案に頷き。教会、本部、町で分担して、後でまた教会前に集まることになった。
■■■その頃のシンク■■■
「ほら。」
「ありがとー。」
医療道具が置いてある部屋にを連れて行ったシンクは、
動物の模様のついた絆創膏をのほっぺたに貼った。
おそらく、ディストの椅子からダイブするとき、頬を擦ったのだろう。
少々血が滲んでいた。
「アイツがお前の父親なのか?」
「うん、ぱぱがわたしをつくったの。」
「つくった?」
「れぷりかっていうんだって、おにいちゃんにおしえてもらったの。」
えへへ、と笑って。シンクが淹れたココアを嬉しそうに飲んでいる。
「・・・そうか、お前が・・・。」
と、呟いて項垂れた。道理で見たことがあったはずだ。
あの悪趣味なディストの部屋にどう考えても似つかわしくない肖像画。
ファンシーなヌイグルミの数々。
そういえば日記を書きながら泣くディストの「どこに居るんです私のーーー!」
という奇声が部屋の外まで響いており、アリエッタが怯えていた。
「お前がか・・・。」
少々思い出して疲れかけたシンクは、が今度は焼き菓子を頬張っては零す、
その零しかすを片付けながらジっと見ていた。
「それ、食べ終わったら教会の前まで連れてってやるよ、
お前のお兄ちゃんとやらが探してるかもしれないしな。」
何となく、ディストのところに連れ居ていくべきではない予感がしたので、そう言うと。
「しんくおにいちゃんありがと、るーくおにいちゃんたちがさがしてるかもしれないね。」
から返ってきた言葉に項垂れる。
まさか、あいつらの関係者か、と頭痛のする頭を抱えながら。
「ほら、もう行くよ。」
残ったお菓子をのリュックに詰めてやり。
紙ナプキンで口を拭って、手を繋ぐ。
◇◇◇
「おにーちゃん!」
「・・・!!!ってあれ、・・・シンクか?」
ルークがばっと飛び出してきたを受け止めると、視線の先には、シンク。
「じゃ、ちゃんと送り届けたからね。」
「?」
ルークはなんだかわかんねぇけど、悪いな。と言った。
「しんくおにいちゃん、またあそんでね!」
と、の方は悠長に手をブンブン振っている。
シンクの方は何故か責められなかったが、結局ディストの方は散々根に持たれており。
アッシュも
「今度会った時こそぶん殴ってやる。」
と息巻いていた。
ちなみに戻ってきたは何があったかの説明を求められたが。
シンクの淹れたココアとリュックに入れてもらったお菓子が美味しかったことと、
動物の絆創膏を貼ってもらったこと以外は特別これと覚えていなかった。(頭の弱い子・・・)
「が無事だったから、ま、いいじゃん。」
というアニスの楽観論で夜会議(謎)は終了となり、全員床に就くことに。
いつも様にの大譜歌を子守唄に、という何とも微妙な贅沢(?)さを味わいながら、
流石に疲れたのか、もすぐに寝入ってしまった。
割かし可愛げもあるじゃないかシンクって、という話になったことは本人の知る由も無い。
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2006/2/20
すみません、大分ご無沙汰した上に更新がコレかよと投石を頂けそうですが(笑)
シンクは、ぽややんイオン様よりお兄ちゃん?で面倒見は良さそうだなーと。
ディストをいじりまくってすみません。今頃また部屋で泣いてますよ(酷)
このシリーズアホ過ぎてどうしようもないですね、ネタの神が降りたらまた書きます。
リハビリ作品ですが、楽しんで頂ければ幸いです。