026. 女性恐怖症
「ガイラルディア様、どうかお気をつけて。」
「・・・ああ、悪いなお前を残して。」
「とんでも御座いません、私が行ったとしても、足を引っ張るだけですわ。」
私は頭を下げる。
見送るのもまた、メイドの務めだ。
「お前が付いて来たいだろうって、わかってはいるんだ、ただ・・・。」
「皆まで言わずとも存じております。
それに、私に万一があって、ガイラルディア様が私を庇うようなことがあれば、
それこそ、メイドとして失格です。」
この人の性格から、そうなることは想像がつく。
「・・・そう、か。」
「私はガイラルディア様に負担をかけたく無いだけです。
ここに残るのもまた、私の意志、どうかルーク様を連れてお戻りください。」
「ああ、約束するよ。」
「いってらっしゃいませ。」
深く頭を下げた。
私がファブレ家のお屋敷に入ったのは偶然だった。
まさかガイラルディア様に会うなんて夢にも思っていなかったのだが・・・。
「はじめまして、本日付でこちらで働かせて頂くことになりましたと申します・・・。・・・?まさか・・・。」
「何だ?俺の顔に何か付いてるかい?」
「いえ、失礼しました。・・・あの、失礼ですがお名前をよろしいですか?」
「ガイ・セシルだよ。」
その言葉で私はすぐに気づいた。
セシル。ユージェニー・セシル様、母がお仕えしていた方。
息子の名前はガイラルディア。
「・・・初対面で失礼だとは十分わかっております。貴方様はホドの生まれでは?」
「・・・。」
沈黙は肯定・・・?
「私の母は昔、ユージェニー・セシル様のメイドとしてホドに渡りましたので。もしや、と思いまして。」
「よく俺だってわかったな。しかし・・・君はホド生まれじゃないのか?」
「私はキムラスカ生まれです。暇を頂いて戻ってきた母は私を生み、伯母夫婦に預けてまたホドに戻りました。
ホド戦争直前に、私当ての手紙と、日記を置いていきましたので、それを読んでまさか、と思いまして。」
「・・・それで、君のお母さんは?」
「ホド戦争で亡くなりましたよ。」
「・・・そうか。」
優しそうな方だ。
ユージェニー様もそうだったと聞いているが・・・。
しかし、どこか物悲しい。
「どうか、お気になさらないで下さいませ。ガイラルディア様。」
「しかし、君が俺をそう呼ぶのはおかしいだろう?君はファブレ家のメイドなんだから。」
「いいえ、私はいずれガルディオス家にお仕えするはずだった身ですので。
もちろん、他人の前では普通に接しますが・・・。」
「なんだか苦労をかけるな。」
「いえ、とんでもございません、よろしくお願い・・・あら?」
手を差し出せばザーっと後ろに引いてしまわれた。
「わ、悪いな、女性恐怖症でね。」
「まぁ!申し訳ありません、以後気をつけますわ。」
「ああ、そうしてくれると助かるよ。」
苦笑いをするガイラルディア様に、私も思わず笑ってしまった。
「にはそっちの方が似合ってるよ。」
「え?」
「笑顔。」
「・・・お上手ですね。」
「本音さ。ここでは俺も使用人の身だしな。」
「・・・。」
「は何も聞かないのかい?」
「聞いたところで教えて頂けないでしょうし、聞くつもりもありませんわ。
個人として、誰にでも秘密はありますもの。」
「そう、か・・・。」
「あ、私そろそろ行かなければ叱られてしまいますね。
それでは、ガイラルディア様、またの機会に。」
「ここにいるんだ、毎日顔を会わせることになる、よろしくな、。」
「ええ、それでは。」
貴方様には何か秘密がある、女の直感でした。
だから、こうして、お背中を見送る日が来ることも、覚悟は出来ていました。
「こういう時、握手くらいするもんだろうけど・・・悪いな。」
「お気持ちだけで十分でございます。」
「もし、この旅で克服できてたら・・・。」
「是非、握手させて下さいませ。」
私はクスクスと笑った。
この人らしい。
「じゃ、今度こそ、行ってくるよ。」
「はい、・・・いってらっしゃいませ、ガイラルディア様。」
深くお辞儀をして、私はその背中に声を掛ける。
今時、使用人が主人に恋をする、だなんて・・・。
馬鹿みたい、かもしれない。
それでも、帰っていらした時は笑顔でお迎えできるように。
私はここで、ガイラルディア様のお帰りをお待ちしております。
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2006/1/5
まんま女性恐怖症、らしくないんですが、こういうのもあり、かと。
この設定でガイ様連載(?)とか書く予定だったのですが、なかなか難しいので。
微妙に両思いっぽいんですが(笑)
ガイ様も本当はヒロインと握手どころかギュっとしたいわけですよ!ね!(ねって・・・)
やはりガイ様も短編の書きにくいお方かも・・・。