007. 導師守護役









「アンタそんなに暇なわけ?」

「そうでしょうね、暇じゃなきゃこんなところで油売ってないし。」

シンクの部屋まで読書に来ているあたしは、彼の部屋を我が物顔で利用中。

「そもそも、導師の面倒はどうしたのさ。」

「だって、もう解任されちゃったもん、今や一般兵よ。」

そう、あたしは元導師守護役・長。
今や導師守護役ですらないけど。

「構って欲しいなら素直にそう言えばいいじゃない。」

「誰が。」

「・・・あっそ。」

あたしは本から顔を上げない。
素直じゃないなぁ、と思う。

「そもそも、あたしは好きで導師守護役やってたんじゃないもの。」

もちろん、導師が嫌いとか、そういうんじゃないわよ。
本に栞を挟んで、あたしは姿勢を正す。

「知ってるよ。」

そんなこと知ってると、無表情に言うシンク。
あたしは導師が誰であろうと関係なかった。
与えられた役職だったし、それを無碍に断る必要もなかった。
ただ、導師守護役という役職は、あまり好きではなかった。

「仕事に私情は持ち込まないもの。」

「・・・。」

「お、意外。当たり前だ、って言うかと思った。
まぁ六神将は私情有りすぎかもだけど、ね。」

秘密にしてたってわかるっつーの、とあたしは呟く。
仕事に私情は持ち込むべきではない。
でも、みんな誰かの、何かのために戦っているのだ。

「あたしは戦闘用のお人形みたく育てられたから、
自分の体に染み付いてるモノが落ち着かないのよね。
導師守護役は前線に出るタイプの役職じゃないし。」

暗殺を頼まれることはあった。
宗教と政治がからめば、そんなことは日常茶飯事。

「どうせそのうち、お前は前線に駆り出されるさ。」

苦々しげにそう言うシンク。



そして、死ぬ。



そう繋げないのが、彼なりの優しさなのかもしれない。
あたしはヴァンの捨て駒に過ぎない。
戦闘用のお人形だ。
いかに人を上手く殺すか、それだけを叩き込まれて来た。

でも、悪く無かったと思う。
残酷だけど。
生きる目的が無いよりは、楽だったのだと思う。



与えられたことをこなすだけで済むのが、どんなに楽か、あたしは知っている。



「一緒に逃げちゃおうよ、シンク」

は?という淡白な疑問が返ってきた。
あたしは笑う。

「ここに居ると肩書きに縛られて苦しいでしょう?
貴方が導師っていう言葉や存在で傷つくくらいならここを出てしまった方が良い。」

「僕は傷ついてなんかない。」

「気が付いていないだけよ。」

「フン、分かったような口を利くな。」

「でも、あたしはそう思うのだもの、嘘をついても仕方が無いじゃない。」

シンクはあたしに軽蔑した眼差しを向ける。
素直じゃないなぁ。

「逃げちゃおうよ、ね、今すぐ、ほら。」

手を引っ張ったら弾かれた。
あたしは傷つかない。

「馬鹿じゃないの?」

「馬鹿だね。」

本一冊持っただけの状態でどこへどうやって逃げるというのだろう。
この真昼間に。

「ただ、ちょっと言ってみたかっただけよ。」

ポツリとそう言い残して、あたしは彼の部屋を出ようと、扉の方へ向かった。

「・・・たって。」

シンクが何か言うが、お互い背を向けていたからよく聞き取れなかった。

「え?」

と、聞き返せば、シンクはもう一度、呟いた。

「逃げたっても僕も、処分されるだけじゃないか。」

処分、という言葉が妙にあたしたちにしっくり合っていて、
あたしは可笑しかった。

「それでも、ここに居るよりはずっと良いかもしれないと思ったんだもの。」

「僕はここの方がマシだ。」

吐き捨てるようにそう言うシンクに、あたしは身長に言葉を選んだ。

「・・・必要と・・・されているから?」

「・・・。」

シンクは答えない。

「あたしが一緒に逃げようって言ってるのは、シンクを必要としているからだよ。
もし、そうでなければ、あたしは一人で逃げ出すもの。」

「何で僕が・・・。」

シンクは優しい。

「ちょっとした冗談だよ。じゃあ、またね。」



シンクは優しいのだ。
あたしは知っている。
あたしと逃げて、あたしが殺されることを心配してくれているのだ。



アリエッタに、ヴァンからシンクが脅されているらしいと聞いたから。
彼にとって、あたしがどれくらいのモノなのか知らない。
そんなの脅しにならないわよ、と笑って言ったら。

は・・・何も・・・わかってない。」

とアリエッタに怒られた。



自惚れるな。
と、怒られるかもしれない。
馬鹿じゃないの?
と、勘違いを罵られるかもしれない。
とんだお節介だ。
と、窘められるかもしれない。



それでも、あたしはシンクと逃げたいと思った。
こんな枷ばかりの場所にいるくらいなら、
いっそ殺されても鳥篭の外に飛び出したかった。
たった、それだけ。










BACK


2006/1/18

6の導師でも良かったんですが、まぁヒロイン重視で。
なんだか似たようなネタというか、傾向なのは、たぶん、私がヒロインを固定しているからかと。
大抵うちのヒロインは、身分とか、役職に縛られるのがイヤとか、世界より〜とか。
ゴーイングマイウェイなんですよね!つまり!(カタカナ・・・)
今回の2人は両思いですが、お互い、はっきり言わない(シンクは言えない)感じで。
あれ・・・これ悲恋です・・・か?(遅)